NEEは、これからも続く!!!! ──くぅを失い、一度は諦め、それでも立った日比谷野音。そこに刻まれた「4人」のヒーローの生き様、そして新曲“ポップスター”について

NEEは、これからも続く!!!! ──くぅを失い、一度は諦め、それでも立った日比谷野音。そこに刻まれた「4人」のヒーローの生き様、そして新曲“ポップスター”について

その日は雨だった。私たちの気持ちに空が共鳴しているような。あるいは、空から見ている「誰か」の思いの表れであるような。2024 年6月23日、日比谷野外音楽堂。くぅを失い、一度は諦めた「東京、夏のサイレン」だった。それでも、夕日は、かほは、大樹は、やっぱりこの場所に立つと決めた。
4人で立つはずだったステージである。その真ん中はぽっかりと空いていた。悲しかった。寂しかった。なんでくぅはここに居ないんだろう。

ステージに3人が現れて、「みんな久しぶり」と夕日が言って──どこか強がりのような気もする声で「あいつが愛してやまなかったNEEっていうバンドと、愛してやまなかったNEEのファンのみなさん。みんなで、あいつがいちばん愛してた、最高のライブをしたいと思います」と言って、ライブでのくぅの歌声を流しながら、3人は演奏を始めた。くぅの声が飛び込んできた瞬間、高揚感が体を駆け巡って、興奮して、でも、どうにも涙を我慢できなかった。かほのコーラスも声が震えていた。“ばっどくらい”“アウトバーン”“本日の正体”。そして“一揆”“月曜日の歌”──どの曲も、くぅは《明日》って言葉を使うのだ。寝て起きたら明日が来るなんて、当たり前のことじゃない。それをわかっていたからくぅは、あんなに必死に一曲一曲を歌っていたのだなと、今さら思ったりもする。昨日と今日と明日の積み重ねが、どれだけ尊いことか。喪失をもって実感するなんて情けないけど、それはくぅが教えてくれた大事な真実だ。
ドラムの前の不自然な空間を、大樹が「恥ずかしい」と冗談交じりに嘆く。雨のステージ、くぅだったら絶対滑ってたね、と笑う。3人だって大きな悲しみの中にいるに違いないのに、つとめて明るく振る舞ってくれる。かっこいい3人だなと思う。そりゃそうか。くぅのバンドのメンバーだもの。

「蔵馬の声を流したけど、これをずっと続けられるわけじゃないから。ゲストをお呼びしてます」。かほのベースが奏でる“おもちゃ帝国”のイントロに呼び込まれ、登場したのは、PEOPLE 1のDeuだった。がなるようなその歌声はくぅとは似つかない。でも《まだ生きたい まだ死ねない》の切実なシャウトには、くぅとDeuの魂の共鳴を感じずにはいられなかった。「蔵馬と言えば俺だろ!」と豪語するItoも参加して、“第一次世界”。ひと息ついて、DeuがぽつりぽつりとNEEへの想いを語る。同時期に“不革命前夜”と“常夜灯”のMVが出て、BLT Recordsで共に歩み、ずっと頼もしい存在だということ。喪失の傷は簡単には癒えないけど、それがあってここまで来れるのだということ。そして夕日、かほ、大樹を全肯定するというエール──Takeuchiも登場し、あのヒーローポーズが会場中を覆った“ボキは最強”まで全3曲。メンバーではない。でも心の奥底で繋がった盟友である。そういう人だからこそ語れる言葉がある。歌える歌がある。PEOPLE 1は、これからもNEEのそばで戦い続けるのだろう。

「愛は苦しいって歌を歌います。すっごい苦しいけど、愛だから仕方ないです」。泣きながらそう言ったかほは、そのまま“なんで”を歌い始めた。その心には確かにくぅを宿し、3人で奏でるNEEの音楽。“歩く花”や“夜中の風船 Mark II”や“DINGDON”では夕日が、“スカートの中を覗く”では再びかほが、“万事思通”では3人が、歌った。果たして3人は、歌いながら何を思っていたのだろう。かほは「生きてることと、生きていないことはそんなに変わらない。くぅの命がなくても、くぅのことを私は守れる。救える。同じように愛せる」と言った。これからもNEEの音楽を鳴らし、歌っていくことがきっと、くぅを守り、救い、愛すということなのだろう。夕日も「このバンドで死ぬまで頑張ります」と覚悟を決めた。大樹も「ほんとは4人でやりたかったけど、心の中にくぅを入れておいて。俺はこの3人でバンドがしたいです、NEEがやりたいです」と言ってくれた。バンドの要を失って、それでも顔を上げて、音楽を続けていくということ。彼らにしかできない「NEEを守る」という決断をしてくれた、夕日、かほ、大樹という3人もまた、くぅと同じように私たちのヒーローだ。

「今日はアンコールはない」と宣言して、最後の曲。「あいつ、死んじゃったけど。死んだ次の日も革命なんか起きませんでした」──再びくぅの歌声と共に届けられた“不革命前夜”、最後に鳴り響いた爆破音は、くぅの最後のポストを叶えたささやかでおかしな餞で。あんなに悲しかったのに、最後には思わず笑顔になってしまった。不思議なことに雨も止んだ。NEEは、これからも続く。それこそが希望である。

そして──今度はくぅから私たちへの餞別かのように、生前最後のツアーで披露されていた新曲のリリースの知らせが届いた。《世界は君を歓迎するんだ》という最大級の受容、すなわち愛の言葉で締めくくられる、そのタイトルは“ポップスター”。ここまでカッコいいのは、流石にずるいよ、くぅ。(安田季那子)

同レポートは、発売中のROCKIN'ON JAPAN 9月号にも掲載中。
誌面では、ここには載せられなかったライブ写真もご覧いただけます。

ROCKIN'ON JAPAN9月号、その他のラインナップはこちら
JAPAN最新号、発売中! Official髭男dism/別冊ゆず/Vaundy/Mrs. GREEN APPLE/吉井和哉×渋谷龍太/BE:FIRST/ONE OK ROCK/サカナクション/UNISON SQUARE GARDEN/My Hair is Bad/ねぐせ。/宮本浩次
7月30日(火)に発売する『ROCKIN’ON JAPAN』9月号の表紙とラインナップを公開しました。今月号の表紙巻頭は、Official髭男dismです。 ●Official髭男dism 新作『Rejoice』のすべて ──困難を乗り越えて辿り着いた、ポジティブで揺るぎない大傑作を…
JAPAN最新号、発売中! Official髭男dism/別冊ゆず/Vaundy/Mrs. GREEN APPLE/吉井和哉×渋谷龍太/BE:FIRST/ONE OK ROCK/サカナクション/UNISON SQUARE GARDEN/My Hair is Bad/ねぐせ。/宮本浩次
ROCKIN'ON JAPAN 編集部日記の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする