鬼束ちひろの再生の物語を観ているようだった。3年半ぶりのライヴ、なんと11年ぶりのツアーファイナル。
踏み倒された草花のようなオブジェの中から緑色のドレスでゆっくり立ちあがり“Sweet Rose”を歌い出すオープニングの緊張感から、
アンコール、Tシャツ&スパッツにラメのヘアバンドで、青いギターを弾きながら《ビューティフル・フィイター!》と叫んだラストまで、
あらゆる時期の鬼束ちひろが飛び出す集大成的なライヴだった。
それを1台のピアノと歌だけで表現していたのもすごい。
《I am GOD’S CHILD
この腐敗した世界に堕とされた》という歌い出しがあまりに有名な“月光”は、この2011年に聞くと再び大きな衝撃が走る。《How I do
live on such a field?
こんなもののために生まれたんじゃない》――。けれども歌い終えた本人は「若い頃に作った歌だから…もう31才で……」となんだか恥ずかしそうだった。
1曲歌い終わるたびにお姫様のようにドレスをつまんでお辞儀をする鬼束、
彼女自身も客席も最初は緊張感に満ちていたが、
数曲歌った後の沈黙で「なんか言ってよ!」というMCをきっかけに、大会場とは思えないアットホームな空気に包まれた。
「ちいちゃん大好きー」「私も好きよ!」、
「ちいちゃん大好き!」という男性の声には「おまえは知らん」と言い放ったり、
グッズのバックステージパス風ネックレスやピックを直接ファンにプレゼントしたり、
アンコールにマイクスタンドを持ってたスタッフをいきなり「この子、妹のももこ。9才下なの。かわいくてたまんないの」と客に言って紹介したり、お茶目ではっちゃけた素のちいちゃんが飛び出し、なんとも微笑ましかった。
意味深い物語性と同時に、最後には意気込みを感じさせるいいライヴだった。
2月にDVD作品としてリリースされる。
1月30日発売JAPANでもライヴレビュー掲載!(井上)