トムにフリーが必要だった理由

トムにフリーが必要だった理由

それはこの映像から紐解ける。

http://www.youtube.com/watch?v=lrXtb1QK9hQ

すごく踊るトム・ヨークだ。

これまでもトム・ヨークはステージで踊っていた。
けれどそれは、知ってのとおり、ひきつったような、エキセントリックなものだった。
つまり、そこで支配的だったのは、精神というか、心のほうだったともいえる。
彼の胸の奥の闇が、器としての身体をびくびくとひきつらせていたようなものだったのだ。

ところが、ここでのトム・ヨークは少し違う。
こんなにも解放的で(ステージの端から端へと動き回り、最前列の観客とコミュニケートするような仕草すらある)、
「ダンサブル」なトム・ヨークは記憶にない。
身体が要求する動きを、そのまま許している。

いうまでもなく、そうさせているのは、上手に陣取っているフリーである。
彼のアクションとその弾き飛ばすほどのベース音が、トム・ヨークをそうさせている。

そして、ということによって、あの「The Eraser」の収録曲も変化しているのだろう。
アルバムの音とライブの音を比べてもしょうがないところはもちろんあるけれど、
ここにあるのはかつてスタジオでいじくりまわして作っていた音とは異なっている。
あからさまにヴァイタルだ。

というか、そうさせたかったのだと思う。
トム・ヨークの「現在」における閉塞感が、このような変化の方向を欲したのだ。
漏れ伝わってくる「レディオヘッドでアルバムを作る作業はしばらくやめておきたい」だの、
「自分のソロもバンドも、曖昧になってきてるんだよね」だの、
最近の発言からうかがえるのは、
クリエイティヴにおける「自由」を確保・獲得したいという彼の心境である。
平たくいえば、トム・ヨークにとってレディオヘッドはとてつもなくプレッシャーであり(あたりまえだけど)、
そのことがソロ・ワークにおいてもなお、抑圧として働く場面はあるということだ。

しかし、優れたアーティストとは、
そうした「抑圧」をきちんと把握し、そこからの脱出戦術を健全に図ることができるものである。
そして、いまのトム・ヨークは、自分のクリエイティヴに、
これまでになかった「肉体性」を導入したいのではないかと思う。

今回の突然のニュー・バンド(なんだよね?)結成とその人選といった一連には、
そのような彼の「状況」があると思う。

そういえば付記。
このトム新バンドに参加しているブラジリアン・マルチ・インストルメンタリスト(名前は・・・このサイトのニュースとかで確認してください)、
昨日発表になったVampire Weekendの新曲のサウンドの、
重要なキーパーソンでもあるそうだ。偶然だけど。

それはさておき、そういうことであるなら、フリーって、実に「ミュージシャン再生」に利く、人物なんだろう。
ジョン・フルシアンテの例を挙げるまでもなく、
なんかかんかミニ・プロジェクトに呼ばれるフリーだけど、
その効能はそうとう高いとみた。
そういう目線で見ると、フリーって、見れば見るほどなんか「利きそう」な物体感だ。
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