U2はなぜあのステージを作るのか

U2はなぜあのステージを作るのか

去る10月28日に、今年のツアーを終えたU2が、自身の公式サイトに、面白い映像を公開している。

http://www.u2.com/news/title/360deg-in-time-lapse

誰もいないスタジアムに次々に部材が運び込まれる。
「クロウ(爪)」と呼ばれるあの巨大なステージ・セットがみるみる建立され、
音響が整備され、照明が取り付けられ、セッティングを終えると、観客がなだれ込んでくる。
めくるめくライト・ショウがふんだんな空撮も交えながらさまざまな角度から披露され、
やがて観客が去り、機材がすみやかに撤収され、もとどおりのスタジアムに戻る。
その一連の工程を、4分半ほどの映像で見せるものだ。

ZOO TV以降、U2はステージに「世界」を築き上げるようになった。
すぐにZOOROPAへと進化したそれは、来るべき高度情報化社会の縮図をそこに現出せしめ、
POPMARTではさらにカリカチュアライズされた現代社会の皮肉と恐怖を異様な一枚スクリーンのフォルムをもって表現した。
一転、ハート型のランウェイをオーディエンスの真ん中に置いた21世紀のステージは、
9.11直後のひとびとに何が必要かを端的に示していた。
日本公演もあった前回のツアーでは、ふたたび巨大なLEDが背後を覆ったものの、
そこには恐れだけではなく、希望も映し出されていた。

たとえそのような舞台装置を設置しなくとも、そもそもU2は、
たとえば純白の旗をひとつ掲げることで、かねてより「世界」をそのステージにあらしめ、
ロックはどこでどのように鳴るべきかという命題から逃げなかったとも言えるだろう。
だから、U2にとってそれは思想なのだ。
ロックをどのようなものとしてとらえ、どのように提出するべきなのか。
その表れが、あのステージなのである。

巨大なスケールのセットをいくつも見せてきた彼らにあっても、
とりわけ途方もない規模となった今回の360ツアーをして、
それこそが、彼らのエゴの肥大を象徴していると揶揄するむきもいまだにいる。
けれど、それはまったく的外れの話だと思う。
U2は、ロックはいったいどこまでできるのかということを愚直に不屈に積んできたバンドである。
その誠実の結果が、われわれがそれまでについぞ見たことのない光景を、
実際に目撃させてきたのだ。
だからむしろU2は、来るべきロックの未来のために今、
黙々と通りを掃いている早朝の作業者にこそ似ている。
われわれを含む後じんは、その有形無形の恩恵に浴していることを忘れてはならないと思うのである。
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