今年後半に公開される作品の中でも、最も期待されている作品のひとつ、ダニー・ボイル監督、アーロン・ソーキン脚本、マイケル・ファスベンダー主演の『スティーブ・ジョブズ』を観た!素晴らしかった!ソーキンが前々から言っていた通り、ウォルター・アイザックソンが書いた656ページもある伝記『スティーブ・ジョブズ』を原作としながら、ジョブズの様々な功績、人生の中で、たった3つの商品ローンチの舞台裏のみを描いたというソーキンらしい傲慢とも言える超大胆な作品。しかしその大胆な手法こそが、この類い稀なる才能を描くのにふさわしく、この作品を作ったクリエイター達がジョブズの何を描きたかったのかという明確な視点が表現されている。まず予告編を見た時に、正直言って思っていたこと……。マイケル・ファスベンダーがあまりジョブズに似てない気がするんだけど、大丈夫なんだろうか。レオナルド・ディカプリオから、クリスチャン・ベールまでぎりぎり変わり続けて、さすがのファスベンダーもあまり準備する時間がなかったんだろうか……と。その予告編がこちら。
この日の記者会見で、マイケル・ファスベンダーも言っていた。「クリスチャン・ベールのほうが似ていると思うんだけど、俺で大丈夫なのかと思った?」と。しかし、さすがボイル監督の見る目は正しかった。映画が始まった瞬間に、ファスベンダーの電気が走りまくるような演技に圧倒されるのである。そして最後まで彼の演技に魅せられる。考えてみれば、ファスベンダーの演技がダメだった映画ってひとつも観たことがない。またしてもやってくれた、という思いだ。ここまでアイコニックな人物を演じる伝記映画なのに、見た目が似てるとかまったく関係ないんだ、ということを一瞬にして証明してみせるのだ。役作りには「アシュトン・カッチャーの演技を研究した」と言ったのはあまりに意地悪でちょっと笑ったが。しかも、確かにアシュトンのほうがジョブズに似ていた。スティーブ・ヴォズニアックを演じたセス・ローゲンが言ったことがこの映画の大胆な手法を言い当てている。「伝記として歴史的事実に正しくあることは、映画の中で、その人物がどんな人だったのかを正しく描こうとする時に、最高の方法とは言えない」。監督も「僕らはこの人物がどんな人だったのかということを、他の人との人間関係を描くことで追求しようとした。そういう意味でこの映画は成功している」と語った。正にその通りで、そういう意味で個人的に少し疑問に思い、これから観るみなさんがどう思うのか気になるところは、ジョブズと娘の関係性が映画の中では一番重要なキーのひとつして描かれていること。本の中では、最も描かれていない部分である。だから大々的に描かれると少し違和感があるのだ。しかし家に帰ってきて調べていたら、こんな記事を見付けた。ソーキンが最も興味を持った部分はジョブズと娘さんとの関係だったということ。そして、
「娘さんは、伝記本用に何も語らなかったんだ。というのも、その時まだジョブズが生きていたからね」「でも、僕は彼女から色々と話しを聞くことができた。すごく感謝している。この映画のヒーローは娘さんなんだ」ということ。なるほど。だから彼女が本では不在なのか。彼の人生で不在だったわけではないのか。
http://blogs.indiewire.com/theplaylist/aaron-sorkin-talks-181-page-jobs-script-says-about-100-of-it-is-that-one-character-20141118ソーキンは、「映画が終わった後に、映画館の駐車場で、天才とは何なのか、もしジョブズがより良い人だったら、彼ほどの功績を残すことができたのだろうか?ということをみんなで話し合ってもらえたら嬉しい」と語っていた。今作はそこまでは定義する作品ではないのだ。また今作は、ボイル監督作にしては、彼のスタイルやセンスの良さが最も控えられた作品と言える。しかし、だからこそボイル監督がいかに偉大なのかを改めて感じさせる作品でもあるのだ。このシェクスピアかと思えるような脚本を前にして、彼のセンスの良さを目立たせる必要はないと彼は即座に察知したのだと思う。しかし細かいところでさすが彼のセンスが光るのである。例えば、それぞれの時代で、使うフィルムを変えて、その時代の空気感を出したりしているところがさすが。さらに、彼の非常にタイトな編集方法も、ジョブズの頭の回転の良さに呼応している。唯一毎映画で楽しみなサントラが今回は最小限なのが少し寂しい。ボブ・ディランやジョニ・ミッチェルなどは引用されるのだが。その中で唯一最高のシーンで今回流れるのが、ザ・マッカビーズの”Grew Up at Midnight"。
名作、傑作がめじろ押しだが、今作は間違いなくオスカー候補作だ。日本公開をお楽しみに!!
NY映画祭で、待望作『スティーブ・ジョブズ』を観た!
2015.10.05 14:30