すいません。ヘッドラインのケンドリック・ラマーについて書いたレポート1からずいぶん時間が空いてしまいましたが、
https://rockinon.com/blog/nakamura/206571
6月9−11日にNYのフラッシング・メドウズ・コロナ・パークで開催された夏フェス、ガバナーズ・ボールのレポートの続きです。
まずは、フジロックにも出演するリゾから!
1)全てを飲み込むリゾの莫大な愛。
ガナバーズ・ボールでケンドリック・ラマーに続いて注目だったのが、フジロックでヘッドラインを飾るリゾだ。ケンドリックは最終日6月11日の大トリだったけど、このフェスをポジティビティ炸裂で開幕したのが初日のトリのリゾだ。
どんな人でも受け入れ、愛を放ち、しかし鋭い批判もし、最終的には気持ちを思い切り上げてくれるライブ。途中でもモチベーショナルスピーチが入るところも、ダンサー達が登場するところも、まだ1000人未満の会場でやっていた時から全く同じだ。もちろんより巨大なスクリーンが使えるようにはなったり、より派手な演出はできるようになったけど、リゾ自身が信じることをやり続けた結果、世界が彼女に魅了されて動いたのだと思う。
最近行われたイギリスのグラストンベリーでも日本のフジロックでもヘッドラインになるほどの存在となったのは、リゾの本当の才能だ。世界が分断し、とりわけアメリカでは最高裁の判断により女性やLGBTQコミュニティの人達からより権利が奪われ、SNSで若者がより自信を失い、ボディポジティブなどが今まで以上に深刻な課題となる中で、リゾは、自分も弱い立場にいたからこそ、自己愛を訴える。
彼女曰く、それは当初はラジカルな表現だったそうだが、だからこそ今では世界を制覇してしまったのだ。しかもそれを世界に一気に届くポップサウンドで極めている。
この日始まりには、
『スター・ウォーズ』のオープニングのような映像で
メッセージが出てきた。
と。「(ここで演奏するのは)愛についての歌で
自己愛について
家族愛について
友人への愛について
セクシーな愛について
愛こそが
世界がより良い場所になるために必要なもの
だから毎日自分を愛する
時間を作って
自分を価値があるように
扱ってあげて
他の人たちも同様に扱ってあげて
それが拡大して
成長すれば
人の命だって救える
ここは自分を愛し、
ダンスして、歌って、叫ぶ場所だから
だからみんな楽しんで!」
そして巨大なハート型のディスコボールから
リゾが登場し、それを体現するように、ディスコパーティを開始。
”Cuz I Love You”を熱唱。
続くファンクポップの”Juice”では、自然に顔が笑顔になるし。どうしたって踊りたくなる。ダンサー達の演出も完璧。
最新作『Special』からの”2 Be Loved (Am I Ready)”など、70年代ディスコ、80年代シンセポップを絶妙に交差させながら、ライブのスピード感もさらにグッと上がる。この日の19曲では、レトロ感を心地良く使いながらも、今のメイストリームのポップソングとして披露した。ハリー・スタイルズのライブなども彷彿とさせる内容だった。
実はこのフェスの直前にカナダで起きた山火事の煙がNYにまで飛んできて、史上最悪の空気汚染となり、フェスの開催自体が危ぶまれた。だからこの日リゾは、「環境問題が悪化する中で、ファーストネーションの人々、先住民の人たちの言うことに耳を傾けなくてはいけない。私たちの水を守ってくれている人たちの言うことに耳を傾けなくちゃいけない。なぜなら彼らこそが、私たちが生き続けられる土地を守ってくれているのだから。私たちはきれいな空気を愛しているから」と地球温暖化へのメッセージも掲げた。
さらに、6月はプライド月間でもあったため、最近のアメリカでの政治的傾向に異議を唱えてよりLGBTQコミュニティを支援するメッセージを発しながら、”Everybody’s Gay”で盛り上げ、レインボウの旗を掲げた。
また、チャカ・カーンの”I’m Every Woman”もカバーし、「黒人女性がロックンロールを作ったのよ!」と巨大スクリーンにティナ・ターナーを映し出したりした。
自分は「ビッグ・ガール」でそれを誇りに思っているとも語った。「私は自分の体を大事にしているし、この体で自分は素敵だと思っている。誰もが愛される価値があると思う」と。
“Truth Hurts”ではフルートの前奏を演奏。”Good as Hell”から最後は”About Damn Time”と最新作からのヒット曲で締めくくり。リゾのファンはもちろん、リゾを聴いたことがない人でも、フジロックで観たら絶対にリゾの虜になると思う。アルバムを聴きたいと思うのはもちろんだが、この場に来て、彼女のエネルギーに触れたいと思うような、誰もが笑顔になるパフォーマンスを披露してくれるはずだ。だから絶対に見逃さないように! お楽しみに。
この日のセットリスト
1. Cuz I Love You
2. Juice
3. 2 Be Loved (Am I Ready)
4. Soulmate
5. Phone / Grrrls
6. Boys
7. Tempo
8. Rumors
9. Fitness
10. Special
11. I’m Every Woman (Chaka Khan cover)
12. Like a Girl
13. Birthday Girl / Happy Birthday to You
14. Everybody’s Gay
15. Watr Me
16. Truth Hurts
17. I Love You Bitch
18. Good as Hell
19. About Damn Time
2)カオスと言える盛り上がりだったアイス・スパイス
たった30分のパフォーマンスだったけど、間違いなくこのフェスで最も注目された存在で、実際最も盛り上がったNYブロンクス出身のラッパー、アイス・スパイス。恐らくケンドリック・ラマーに次ぐ人気だったと思う。
ステージ前にも、早くから彼女を観たいファンが詰めかけて、いざ登場したらほとんどカオスだった。
去年の夏”Munch”がNYのドリルアンセムとなるくらいの爆発的な人気を獲得した彼女。つまりそれからまだ1年も経っていないのに、すでにピンクパンサレスとの大ヒット曲”Boy’s a liar, Pt. 2”があり、テイラー・スウィフト、ニッキー・ミナージュとコラボなど全方向から強烈な人気を獲得している。実際、この日の直前には、テイラーの7万人キャパのNJ/NYスタジアムライブで、コラボ曲”Karma"を3公演で披露したばかりだった。
この大舞台では、果たして彼女はライブパフォーマンスできるのか?を証明しなくちゃいけなかった。さらに私は知らなかったのだけど、このフェスの前に行われたライブでは、何かの機材トラブルがあったみたいで、パフォーマンスが口パクでそれがファンをガッカリさせたらしいのだ。
しかしこの日は口パクでもなかったし、このフェスのベストアクトのひとつと言える最高のパフォーマンスを見せた。彼女の何がカッコ良くて、2023年的であるのかというと、例えば人気となった”Munch”で「まさか私があなたのこと好きだと思っていたの?」とつまりそんなわけないじゃん、と、サラッーーーっと男に言いのけるそのクールすぎる態度だ。
さらに、ニューヨーカーはみんなそうだけど、「私は意地悪だし」と言い、しかも、「彼は私のこと彼女と思ってるみたいだけど、私の彼氏じゃないから」。「あなたの愛が欲しいわけじゃなくて、お金が欲しいだけ」と言い切る非常に独立した、自分の欲しいものは何なのかしっかりと分かっていてそれを言葉にできる女性なのだ。それを非常に覚めたクールなラップで表現するのが最高にカッコいい。
この2023年的女性の態度が彼女の魅力でもあり人気の理由でもあると思う。それをこの日見事にパフォーマンスでも見せてくれた。しかも、この日ステージの数はまだ少ないはずなのに、自信がみなぎるパフォーマンスを見せたのも最高。何より、カオスのその中心にいながら、全てをコントールするようなカリスマ性にみんな魅了された。”Munch (Feelin’ U)”で最大の熱狂となり、最後”In Ha Mood.”で圧巻のライブは終わった。
セットリスト
Princess Diana
Gangsta Boo
Actin a Smoochie
Boys a Liar Pt. 2
Pound Town
Bikini Bottom
Munch (Feelin’ U)
In Ha Mood
3)ピンクパンサレス
クールさとカリスマ性と言ったらアイス・スパイスに匹敵するピンクパンサレス。だから彼女たちがコラボと聞いた時、これ以上の今な2人による完璧なコラボもないと思えた。実際にコラボ曲はこの夏を代表するヒットとなった。
この日のパフォーマンスも彼女のステージ上でのクールさがまるで変わらない。去年の9月にLAで開催されたプリマベーラに出演した時と同じ落ち着きっぷりで驚愕した。
https://rockinon.com/blog/nakamura/204179
その時と同じようにバッグを持って登場し、あの時は持ったまま歌い続けたけど、今日はDJの横に置いていた(笑)。コラボ曲のヒットがあるからか、メインステージの3時台という最も暑い時間帯にも関わらず、多くの観客を集め、しかしまるで怯むことなく、いつものようにふわふわと軽やかにパフォーマンスを見せる。それでいて、アイス・スパイスと同じで簡単に観客の心を掴んでショー全体をコントロールしてしまうパワーがあるのだ。恐るべし。
しかも前回観た時、さらに大きなステージでのパフォーマンスする見せ方も習得していたように思うし、今回は、DJだけじゃなくて、生のドラムも出演した。彼女曰く急遽お願いしたのに「完璧なパフォーマンス」。曲と同じで、軽やかさと、キュートさと、センスの良さで、現代の重苦しい空気を解放してくれるピンクパンサラスは、この日も最高のパフォーマンスを見せてくれた。
4)圧巻のaespa
aespaが登場する日は、電車から降りた瞬間に、アジア系の女子が一気に増えたのにまず感動した。実はその日は、リナ・サワヤマも出演だったので、何気にアジア人アーティスト括りだったのだ。このフェスで感じたのは、やはりアーティストがLGBTQコミュニティだったりすると、LGBTQコミュニティの観客が明らかに増えたこと。よくインクルーシブ、ダイバースと言うけれども、実際出演するアーティストによっていかにしてそれが可能なのかということ。またそれが大事なのかが良く分かった。
aespaは、そもそもメインステージのトリ直前でなんとリナ・サワヤマが彼女たちの前だ。言ってみれば一番良い時間帯で登場。この日は早くから手書きのメッセージを掲げたファンが詰めかけていたし、ライブが始まる直前になると最前列のファンはみんなペンライトも持参の熱狂的な人達ばかり。
そういう観客の喜ぶ姿を観る以上に楽しいこともないのだが。彼女たちは出てきた瞬間からその気迫が凄まじかった。SFからラップからテクノ、ポップが洗練されたサウンド作りで変貌していき、しかも、パフォーマンスが超ハイテンション。どこか異次元的でもあり未来のポップミュージックを観ているような錯覚にも陥る非常にパワフルなパフォーマンスだった。
NYのフェスでメインステージのトリ直前にステージに立ったことへの喜びと、集まったファンへの感謝と、彼女たちのアーティストとしてのプライドの全てが、その完璧とすら言える歌唱力、ダンスも含めたパフォーマンスで表現されていた。
この日は大舞台で、熱狂的なファン以外の観客も多く集めていたので、彼らに強烈な印象を残す大成功のライブをやってのけたと思う。
5)Metro Boomin
ザ・ウィークエンドに、フューチャー、ドレイク、ミゴス、21サヴェージなど書き切れないくらいのコラボ曲で、ヒット曲がありすぎるMetro Boomin。大ヒットアルバムの『Heroes & Villains』から最近は傑作と言える映画『Spider-Man: Across the Spider-Verse』のサントラも手掛けたばかり。
このフェスには初出演でもあり、正に今旬という熱気で、開始と同時に観客が前に押し寄せ、熱狂の中躍りまくる、危険ギリギリの光景が広がっていた。幸か不幸か、開始から15分でこのフェス唯一にして最大の大雨に見舞われたが、それでもみんな踊り続けた。
6)その他
他のアーティスト重なっていて全然観られなかったか、1、2曲くらいしか観られなかったけど本当だったら全部観たかったアーティストがたくさん。
リナ・サワヤマに、070 Shake, Kim Petras, Haim, Lil Uzi Vert, Suki Waterhouse, Black Midi, Central Cee, Lil Nas Xなど。それがフェスの切ないところでもあり、でも少しでも生で観られるのと観られないのでは全然違う。次回、単独ツアーでやって来た時にまた観たいと思うようなライブだった。
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