2年前のデビュー作で脚光を浴びたブルックリン発Z世代バンド、ギース。ボーカルのキャメロンがいきなり日本語で答え出してびっくり。インタビュー番外編。

pic by KYLE BERGER

みんな大学に進学してバラバラになっちゃうので、2021年に高校最後の記念として作った『プロジェクター』。

それが、インディレーベルで争奪戦となりデビューすることになったブルックリン発のZ世代バンド、ギース。NYロックシーンを正しく継承したとか、NYロックシーンの良いとこ凝縮された新世代バンドなど評され、脚光を浴びたけど、今年発売された2作目『3D County』ではさらに壮大に世界観を広げていた。

この作品について、ボーカルのキャメロン・ウィンターにインタビューした。今日まで店頭にあるロッキング・オン9月号に掲載されている。ぜひ読んで欲しいのだけど、実はそこに掲載できなかった部分も非常に面白かったので、番外編としてご紹介。一番面白かったのは、なんといきなり日本語で答え出したこと。それも信じられないくらいうまくてびっくりしたのだ。以下抜粋。


〈いきなり日本語〉

●『プロジェクター』は大学進学してバラバラになる前に、高校最後の記念として作ったアルバムです。最初で最後と思って作った作品が、シンデレラストーリーのようにーー。
「(笑)」

●多くのレーベルが争奪戦を繰り広げて契約したんですよね。だから『プロジェクター』を作っている時は、観客を意識していなかったと思うのですが、今回は誰もがこのアルバムを待っている中で作ったわけですよね。このアルバムとファーストの制作過程はどのように違いましたか?
「えっと、これって日本のインタビューだよね?」

●そうですよ。
「君は日本人なの? 日本語喋れるの?」

●もちろんですよ。
「(以下全て日本語)2年前から、日本語の勉強をしています、僕は」

●えっ! うまいです。
「(笑)喋るのはまだ片言ですが、ちょっと日本語で答えてみてもいいですか?」

●日本語すごいうまいです。どうぞ。
「あああ、ちょっと失礼ですが、質問はなんでしたか?」

●『プロジェクター』とこのアルバムのレコーディング時の心境やスタジオでの経験はどのように違ったか?
「自信満々でした」

●このアルバムは?
「うんうん。この時は、このアルバムは、自信満々でした。それから資金、お金がありました。それからプロデューサーもありました。僕の音楽を、考える時間もありました。僕たちは、ちょっと『プロジェクター』より、作品を作れる自信がありました。他の……..えっと、日本語最悪でごめん」

●そんなことないですよ。びっくりしています。
「僕たちは、他の分野には自信がないですが、でも音楽の分野には自信満々でした。えええっと、ここまでで諦める」

●(笑)。
「(英語で)練習もしっかりする時間があったし、練習って日本語でなんて言うか忘れちゃった」

●練習ですね。
「そうだ、練習! 練習しました。ありがとうございました。(英語に戻って)そうそう、だからたくさん練習したんだ。この機会を最大限に使いたかったからね。全然ナーバスになったりしなかったし、少なくとも、『プロジェクター』よりも良い作品ができると確信していたんだ」

●(日本語で)日本語、なんで勉強してるんですか?
「(笑)(以下日本語で)知らない、本当に。僕はフランス語を勉強していたんだけど。コロナの中で、大学に入らないと決めたから、バカになると思った」

●(笑)。
「僕は、フランス語の勉強をしていたんだが、喋れることになったから、もっと難しい言語を勉強したかった。日本語の勉強をしています。えっと、まだまだ日本語が下手(笑)。超下手です(笑)」

●いや、すごく上手いですよ。2年間しか勉強してないんですよね?
「そう」

●信じられないくらい上手いです。本当に。
「読むことは、できる」

●本当??
「喋るより、読める」

●えええええ、このしゃべるより読めるの!
「そうです。アニメを観てたから。だけど日本語を喋るチャンスがない」

●でも信じられないくらい上手いですよ。
「ありがとう、ありがとう」

●本当に上手いですよ。
「(笑)そうかなあ」

●私のいとこ達はハーフジャパニーズでブルックリンに住んでるけど、あなたの日本語の方が上手いよ。
「本当に?!(笑)(英語に戻って)でも本当に日本語で話してくれてありがとう。機会があったら日本語で話そうとしているんだ」


pic by KYLE BERGER


〈NYロックシーン継承の難しさについて〉

●あなた達は、NYバンドとしての歴史も継承しているとよく言われますよね。テレヴィジョンに、ヴェルヴェット・アンダーグランド、ザ・ストロークスなど。私がライブで観た時はむしろクラッシック・ロックバンドからの影響が強いという印象でしたが、自分たちの中ではNYアートロックシーンを継承し、新世代的な音を鳴らしたいという意識はありますか?
「うーんと(ちょっと考える)。それはちょっと奇妙で、というのも、NYロックってすごく、えっと、どうやって言うのが良いかな。そういうバンドと結び付けて語られるのは、確かに彼らみたいなサウンドも鳴ってるとは思う。だからそれは分かるけど、でもそうはあまり思っていないんだ。

そもそもNYって場所が、昔とはずいぶん違う。N Yバンドのレガシーを再開したいと思っている人は常にいるんだと思うし、次世代のNYロックを探している人っていると思う。その火を絶やしたくない人もね。でもNYロックシーンの誕生なんてもう実現不可能だ。NYがそういう場所ではなくなってしまったから。ここで生きていくだけでもすごく大変だよ。てか、NYで生きて行くなんてほぼ不可能だ。何かしらの経済的な援助がない限りはね。だからNYでアートロックとかパンクロックを作りたいなんて思ったら、終わりだよ。ホームレスになる。

僕らが出来ているのは、みんなNYの中産階級以上の出身だからであって、僕らがバンドをしている時に援助してくれる家族がいるからだ。それってもう、ものすごい特権だよ。だから僕らはトム・ヴァーレインみたいに、家を出て、ストリートに住んで、詩人で、バンドを始めたみたいにカッコ良くはない。僕らは彼らのアイディアを借りてるだけで、実際は両親の家に住んで、レコーディングしているんだ。それは自覚しているよ。

だから、”次世代の何々”とかって言われると、すごく居心地が悪くなる。僕らは、自分たちが作れる最高の音楽を作れるように努力している。僕らにできる限り本物のものを作るように努力はしている。それに、今君が言ったバンド全てにインスピレーションを得ているとは言える。彼らは全部偉大なバンドだからね。とりわけ、テレヴィジョンは偉大だよね。だけど、僕らがNY出身ってだけでーー、それを取り立てて語ろうとする人は、ヘッドラインを書きたい音楽批評家だけだと思うよ」

●ザ・ストロークスはNYバンドでみんなお金持ちの子供ですけど、それでもクールなので、特権を気にすることないですよ(笑)。
「(笑)そうだよね。彼らはお金持ちの子供だけど、クールだよね。より難しいとは思うけど、でも可能だと思うよ。でもすごく難しいよ。80年代、90年代以降にNYが豊かになって以来ずっとそうなわけでね。


そうそう。それとはまた別の話だけど、今はインターネット時代で、僕らはみんなインターネットで育ってきた世代だ。だから”NYシーン”自体がもうそれほど重要なものではなくなっている。だって僕らはインターネットのおかげで、さっき言ったようなUKバンド(彼が敬愛するブラック・ミディブラック・カントリー・ニュー・ロード、スクイッドなど)が世界中に届くレーベルと契約する前に、もう聴けてしまうわけだからね。


僕は、ブラック・カントリー・ニュー・ロードがまだすごく小さいバンドの時点で、もう彼らにインスパイアされていたわけだよ。Spotifyは、間違いなくアーティストにとっては最悪のプラットフォームだけど、でもSpotifyがあったおかげで、彼らの音楽が僕にまで即、届いたわけだからね。つまりシーンって言っても、地元のレコード屋に集まってインスパイアされたキッズがそれでバンドを始めるっていうものではなくなって、それよりもどのインターネットのプラットフォームを使っているのか、ってことになったんだ。または誰をインスタでフォローしているのかとか。そこにシーンがある。それで、それってどこにいてもありなんだよ。それってすごくエキサイティングだよね。その代わりに、古くからのシーンへの考え方はもう古臭いものになってしまったと思うんだ」



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ギースの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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