マライヤ・キャリー!/オスカー候補@トロント映画祭その6

マライヤ・キャリー!/オスカー候補@トロント映画祭その6

マライアはオスカー候補にはなりません。が、マライアが出演したインディ映画、”Precisou:Based on the novel "PUSH" by Sapphire"がオスカーにノミネートされる可能性は高い。そうあることが政治的にも正しいような気がする。


今年のサンダンス映画祭で上映されて以来話題となってきたこの作品は、NYのハーレムに生きる16歳の女の子を主人公にしたもの。彼女が家族に性的、精神的虐待を受けながらも、学校やクラスメートに支えられてサバイバルしようとする物語だ。なのだが、彼女には次から次へと想像を絶する不幸が降り掛かり、観ているのが辛い。しかし、どうしようもなく辛い時に彼女のファンタジーの世界が飛び出して、そこが観客の逃げ場にもなったりする。さらに、クラスメートのおかしさが癒しにもなったりする。これは小説を元に映画化されたものだが、つい本当の話がベースになっているのではと思うくらい悲惨だがリアルな物語でもあるのだ。


この作品がオスカーに近付くだろうという最大の理由は、アメリカのTV司会者として最も影響力があり、長者番付の常連であるオプラ・フィンフリーがサンダンス上映後に感動して全面サポートを決めたことだ。


トロントで行われた記者会見にも、彼女を筆頭に、マライア、主題歌を歌っているメアリーJブライジ、監督、出演者など総勢12名が壇上に上がるという力の入りよう。メアリーJもそうだったが、出演者達も、過去に自分が受けた虐待の話などをして、声を詰まらせる場面もあったほど。映画には、看護士の役でレニー・クラヴィッツも出演している。


マライアは、ソーシャル・ワーカーの役で演技は下手なのだが、なんとか監督が目立たないようにしてくれている。髪もダークに染めて、化粧もほとんどなし。会見では監督にいじめられたと言っていたが、照明が上から当たっていて、目の下にくっきり線が。ゴージャスなマライアのイメージを消すための策だったのだと思うが、ちょっとかわいそうなくらいだった。しかし見方によれば、体当たりの演技だ。この日なんと朝9時半からの会見で、早起きが苦手そうなマライア。絶対に来ないだろうと思ったが笑顔で出席。役柄について熱弁していた。新作は遅れているのに、こんなことしてていいのでしょうか?とも思いつつ、インディ映画が脚光を浴びるということがどれくらい大変かよくわかるので、この作品のためには喜ばしいことだ。


そういえば、以前ビヨンセにインタビューした時も「オスカーが欲しい」と言っていた。その時は冗談だと思ったけど、引き続き頑張っているので、本当に欲しいのだろう。あれだけ若くて音楽の世界で制覇してしまったら、余ったエネルギーと上昇志向がオスカーに向いたのだと思う。マライアも同じだろう。
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