Lillies and Remains『Romanticism』:邂逅

Lillies and Remains『Romanticism』:邂逅

タイトルどおり、ロマンティックなアルバムだ。元SOFT BALLET・藤井麻輝とLillies and
Remainsの出会いは、まさに運命としかいいようがない。

藤井のプロデュースのもと、明らかにバンドは変わった。音が描き出す風景がモノトーンであることは基本的に変わらない(ギターのサウンドとKENTの声がそう感じさせるのだと思う)が、そのモノトーンの階調が一気に豊かになり、微妙なグラデーションが描かれている。ニューウェイヴやポスト・パンクというとどうしても「無機質」「金属質」「硬質」というようなイメージが先に立つが、じつはそれだけではない。あの時代、そういう質感の音が生まれた背景には当然ロックンロールやパンクが生まれたのと同じようなエモーションや感覚があったはずで、今作のリリーズはそれをちゃんと生み直しているという気がする。だから、すごく簡単な言葉でいうと、とても温かい。


フロントマンのKENTはソングライターとして非常にハイセンスで、かつ音楽への造詣も深い。だから彼の作る曲については何も言うことがない。年を追うごとに、彼は自分の声に対する信頼を深め、音楽の興味の幅を広げ、テクニックを身につけ、進化し続けている。

ただ、そんなKENTのクリエイションを表現する装置としてのバンドがどうだったかといえば、必ずしも完全ではなかった。というか、今もそうではない。KENTとKAZUYA(G)のふたり組という構造は、フォルムとしては美しいが、バンドとしては歪だ。もちろんライヴはサポートメンバーがしっかり支えているし、楽曲の再現性という意味ではむしろよくなっているのだが、KENTはたぶん、孤独なはずだ。KAZUYAは彼のすばらしい理解者だし、周囲には仲間もたくさんいるが、表現者としての想像力を100%分かち合える存在が必要だ、と思う。

藤井麻輝はまさにそういう存在である。現在の日本でニューウェイヴの本質を鳴らし続けるリリーズにとってはゴッドファーザーであり、KENTがすべてを預けることのできるプロデューサーだ。そんな藤井と出会ったからこそ、技術論とは別の次元でも、リリーズは変わったのだろう。それが僕がこのアルバムを聴いて感じた温かさの正体なのかもしれない。迷いがなく、温かい。

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