東京カランコロン『UTUTU』全曲カウントダウンレビュー その8:左耳から白旗

東京カランコロン『UTUTU』全曲カウントダウンレビュー その8:左耳から白旗

東京カランコロン『UTUTU』、1月14日リリース!
発売日まで1日1曲ずつ、全曲をレビューしていきます。
あと6日!


8. 左耳から白旗

アルバムも後半にさしかかり、ここまでさんざん感動したり驚いたりした挙句に聞こえてくる不穏な音色。“左耳から白旗”ってどういう意味なんだろう。と考える暇もなく、ちょっとダークなおとぎ話の世界にどっぷり飲み込まれていく。情景をありありと描き出すアレンジと歌に乗せて、赤いドレスのお嬢さんとか怪しいシチューを作っている老婆とか、奇妙な登場人物たちによるダンスパーティの始まりだ。意味不明な呪文を唱えて、《戯けみぃよ》と聴き手もその謎多き世界に誘っていくせんせいのヴォーカルは、まるでミュージカルのように響く。

この前にあるのが例の“ネオンサインは独りきり“なのでわりとすんなり聴けてしまうのだが、この”左耳から白旗“こそ、じつはこのアルバムにおいてこれまでのカランコロンともっとも飛距離がある曲かもしれない。ナンセンスなファンタジーの舞台装置に徹するバンドの演奏は、舞台の雷鳴を表現するギターとか、おどろおどろしく鳴るドラムとか、アイディアこそてんこ盛りだが自己主張をするというよりもストイックに物語を支えている。ドラム・ベース・ギター・キーボードという東京カランコロンの基本フォーマットで作られているにもかかわらず、「このギター、おいたんだなあ」とか、「このベース全ちゃんっぽいなあ」とか感じることがないのだ。いちろーもハーモニーを重ねているが、それすらも完全に背景になっている。それだけせんせいの歌の存在感が強いということでもあるし、曲そのものの世界が強固にあったということなのかもしれない。

最初に彼らに取材したときにいちろーとせんせいが口を揃えて「何をやってもカランコロンになる」のが理想だと語っていたのがなぜかものすごく印象に残っていて、このアルバムはまさにそういうものになっていると思うのだが、この“左耳から白旗”はまさにそうかもしれない。「これが東京カランコロンだ」という主張はまったくない、でもこんな曲はカランコロンにしか作れない。


明日は9曲目“笑うドッペルゲンガー”について書きます。
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