ついに、カニエ・ウェストが大復活の狼煙を上げている!
2年ぶりとなる新作『ドンダ』のリリースが8月6日に予定されているのだ。“ドンダ”とは、元大学教授でシングルマザーとしてカニエを育て上げ、その後カニエのマネージャーにもなり、甚大な影響を及ぼしてきた母親の名前だ。2007年に急死し、カニエはその悲しみを08年の名作『808s &ハートブレイク』に結実させてもいる。
では、なぜ今また“ドンダ”なのか。たとえば、前作『ジーザス・イズ・キング』ではその徹底した信心告白という内容にも驚いたが、しかし、作品のテーマの核心は、父親レイの存在と向き合うということにあった。カニエとしてはそれまで父親から受けた影響など皆無だと自負してきたのだろうが、『ジーザス・イズ・キング』と自身の双極性障害を吐露した2018年の『イェ』でさらけ出したのは、自分はコンプレックスだらけで、自分のとてつもない創作欲と自己実現へのあくなき欲求は、父親に認められたいという自分が思ってもいなかった衝動に駆られてのものだったということなのだ。
それに対して、13歳だったカニエのたっての願いを聞き入れてスタジオでの自作ヒップホップ曲のレコーディング費用を出してその作業を見守り、その後、アーティストとなったカニエをマネージャーとして支えてきたのが母親ドンダだ。おそらく、自分を自分たらしめた存在としてのドンダと、そんな自分はどういう存在を目指すのかということをみつめ直すのが今回のこの『ドンダ』なのだ。
この新作、7月22日にアトランタで試聴イベントも行われたが、その時公開された音源が“Donda”というアカウントからYouTubeで公開もされている。これが新作の内容そのものなのかどうかはまだわからないが、少なくとも2016年の傑作『ザ・ライフ・オブ・パブロ』以来といってもいい、カニエのエモーションを総動員した感動的な音源だ。それは差別問題に揺れるアメリカの現在と、キム・カーダシアンとの別離を軸とした自身の現在と、そこに至るまでの自分とその未来をみつめ直す渾身の作品だ。(高見展)
カニエ・ウェストの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。