セイント・ヴィンセントが初のオンライン・コンサートが開催。最新作『Daddy’s Home』の世界観を見事に構築した最高のエンターテインメントだった!

セイント・ヴィンセントが初のオンライン・コンサートが開催。最新作『Daddy’s Home』の世界観を見事に構築した最高のエンターテインメントだった! - rockin'on 2021年10月号よりrockin'on 2021年10月号より

セイント・ヴィンセントが、日本時間8月5日に超スペシャルな有料オンライン・コンサート『DOWN AND OUT DOWNTOWN』を行った。高評価の最新作『Daddy’s Home』の世界観をいつライブ体験できるか分からない地域のファンにとっては、これ以上ない最高の企画で、日本ではZAIKOで独占配信された。

とりわけ今作は、1971-75年のNYダウンタウンで作られたスティーヴィー・ワンダーなどの作品がインスピレーションという明確な世界観が打ち出されていたし、何よりロッキング・オンの取材でも「自分が自分のバックアップ・ボーカルを歌っていない恐らく初の作品で、おかげでアルバム全体が自由になり、よりパフォーマンス主体の作品になったと思う」と語っていたくらいで、パフォーマンスを目的として生まれてきた作品だった。

実際、始まった瞬間から、今作のMV同様70年代のTV番組のような設定で、過去の曲まで最新作のアレンジで聴ける特別な内容となった。ジェイソン・フォークナーはじめ腕利きのミュージシャンが揃ったバンドとコーラス隊による本編と「アフター・パーティ」なるアコギ・パフォーマンスまで含め計15曲が演奏された。アルバムの幕開けとなるファンクな“Pay Your Way in Pain”では早速コーラスと彼女のボーカルのハーモニーが強調され、《愛されたいだけ》という叫びが強烈なパンチをかましてくれた。

また、サイケデリックに挑戦したと言っていた“The Melting of the Sun”では、キーボードをギターで実現したかのごときまさに溶けるような黄昏モードの彼女のギター・ソロが堪能できた。彼女が一番好きと語っていた“Down and Out Downtown”では、悩ましいベースのメロウさに酔いしれる。過去の名曲“Los Agel ess”や“Masseducti on”なども最新のレイドバック版で演奏され、新たなグルーヴを纏った曲に変貌したのが最高だった。

彼女は今作を「21世紀のブルース」と語っていたが、最新作のざらつきや薄汚れていて、しかし時に光が差すような世界観を終始構築。スクリーンの前の観客たちの絶望と、諦めと、希望を反映し鳴らしているようなライブだった。トイレで視聴者に話しかけたりするシーンも秀逸で「まあ、人生大変だけど、そんなに難しく考えないで、いつかなんとかなるよ」とでも言うような緊迫を解きほぐすサウンドだった。間違いや失敗への許しや癒しを奏でる最高のエンターテインメント、いつか生で堪能したい。(中村明美)



セイント・ヴィンセントの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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