マイケルが、プリンスが、現実にそこにいて歌い、舞い、キラキラ輝いていた時代。
新型ウイルスによるパンデミックで世界中が危機的状況に襲われるという近未来小説があったとしても、ベストセラーになるなんて考えられない時代。80年代半ばからはバブル期に突入するなど、すべてが楽天的な好況感が支配した時代だった。
ロックは間違いなく世界のポップ・カルチャーを先導していたし、次から次へと新しい才能が現れ、華やかに踊らせた。イギリスからは、ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズが登場した60年代に重ねて、第2次ブリティッシュ・インベイジョンと呼ばれるほどヒューマン・リーグやカルチャー・クラブらによってヒット曲が連発されチャートの独占状態が続いたし、ブルース・スプリングスティーンなど大物たちも負けじと熱のこもったアルバムを発表して応え、さらにソニック・ユースやダイナソーJR.らインディペンデントな活動を各所で続けるアーティストのクリエイティブな刃もまた先鋭化していた。
そんな状況下で特別な存在感を示したのが、ハード・ロック~ヘヴィ・メタル(HR/HM)系で、ヴァン・ヘイレン、ホワイトスネイク、AC/DC、オジー・オズボーン、モーターヘッドらが人気を集める中、ついにはクワイエット・ライオットがメタル界初のアルバム・チャート1位を獲得、ボン・ジョヴィやガンズ・アンド・ローゼズがアイドル的な人気者となるなど、とても今では信じがたい光景が現出していた。ライバルはマイケルやプリンスたちであったのだ。
レッド・ツェッペリン、ディープ・パープルの時代は、その激しいサウンドにフラストレーションや欲望の爆発を重ねた人々の熱い支持を受けたが、その暗い熱気とは違ったカリフォルニアの陽気が似合うヘヴィ・メタルが、この時代を席巻した。いっぽうでそうしたポピュラリティに飽き足らないコアなファンは、よりエッジの尖った、速い、激しいサウンドを求めるようになり、イギリスではNWOBHM(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)が生まれ、それに刺激されたのがアメリカのメタリカに代表されるスラッシュ・メタルのバンドだった。
大物も新才能も次々と現れた群雄割拠の時代だからこそ、HR/HMの音群たちもエンジンを限界点まで回転させたし、受け止めるファンたちは熱く燃え上がった。すべての話題が重く、暗くなる今だからこそ、あの熱波をいま一度検証し、身近にすることには大きな意味があるはずだ。 (大鷹俊一)
<コンテンツ紹介>
★1988年、ガンズ・アンド・ローゼズが絶頂期に語った超貴重インタビュー
★天才ベーシスト、クリフ・バートンの死の直後である1987年、メタリカ再生のドラマが描かれたインタビュー
★80年代究極のハード/メタル名盤を軸に、当時のシーン全体を詳細につづった特別論考
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