年末特別企画! ロッキング・オンが選ぶ、2021年の「年間ベスト・アルバム」TOP10を発表! 【第9位】


2021年も、残りあとわずか。

新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2021年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。

年間9位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。

【No.9】
『ウェルカム・2・アメリカ』/プリンス



書き加えられた伝説の1ページ

“ウェルカム・2・アメリカ”での、印象的なベースが牽引する緊張感に満ちたアンサンブル。ベースにタル・ウィルケンフェルド、ドラムにクリス・コールマンを迎えた初集結の布陣であるにも拘らず、紛うことなきプリンスのあの密室的なグルーヴになっている。続く曲達のコーラス・ワークやボーカルの息をのむような凄味もそうだ。

2010年に制作されるもお蔵入りとされていた本作だが、やはり単なる編集盤などではないプリンスの新たなオリジナル・アルバムとして祝福すべきものである。その前提でフラットに判断するならば、本作は彼のディスコグラフィにおける幾つかの特別な傑作を超える水準にはなってはいないかもしれない。ただ一方、10年前に制作されたこのアルバムが、強烈に今日的な輝きを放っていることもまた間違いないのだ。

アルバムの中では随所で2010年時点のアメリカが抱える、そして現在の世界においても地続きになっている社会の諸問題への視点が示されているが、特に凄まじいのがラスト3曲。まず、“1010(リン・ティン・ティン)”で《こんなにおかしな時代はあった? 僕たちが生きている現代以上に 地震 洪水 急いだほうがいいよ 仲間のみんな》とストレートに危機感を表明する。

続く“イエス”では《もし病んで疲れてウンザリしているなら言ってよ 誰か来たようだね 火を起こそうか おいで すべてのハートで変革が起きるんだ 全員が役割を果たすんだ》と強く旗を振る。そして、ラストの”ワン・デイ・ウィ・ウィル・オール・ビー・フリー”では曲冒頭で、《ベッドに入ってやっと気づくんだ すべては夢だったって》と理想から現実へと一旦着地しつつ、《その日が来たら僕たちはみんな自由になれる》と希望を繰り返し歌い、作品を締め括る。状況は悪化を続けていて、分断に橋を架け変革を起こす、そんな夢のようなことでもなければとても好転しそうにない。

しかし、それでも希望を捨てずに抵抗し続けるしかない。プリンスは、2010年の地点から、我々の今日をこれほど明確に歌い切っているのである。今年作られた幾多の作品に、やがて同じ役割を果たすものがあるだろうか。プリンスは、やってのけた。そして、既に我々はこの奇跡を「プリンスだから当然」と受け入れている。そういう存在なのだ。我々が永遠に失ったプリンスという巨人は。(長瀬昇)



「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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