2021年も、残りあとわずか。
新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2021年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。
年間8位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。
【No.8】
『イット・ウォント・オールウェイズ・ビー・ライク・ディス』/インヘイラー
ロックが自ら響かせる「夜明け」
昨年から長らく続いた新型コロナウイルス禍によって多くの制約と忍耐を強いられた2021年を、それでも自分が確かな充足の手応えと「その先」への希望と共に見送ることができるのは、2021年が同時に「インヘイラーのファースト・アルバムに出会えた年」でもあったから、という理由が大きい。
音楽的なギミックや飛び道具に頼ることなく、エクストリームな表現やメッセージを過積載するのでもなく、堂々とロックとバンド・サウンドの核心を響かせてみせたインヘイラー。後進世代ならではのロックへの無垢なロマンや批評眼を通して理想のロックを「構築」すること――つまりロックで「何を」鳴らすかを突き詰める新鋭は少なくないが、そのロックを「どう」鳴らすか?という点でいきなり王道のど真ん中を体現してしまった彼らの存在は、まさに奇跡と呼ぶしかない。
全英のみならず母国アイルランドのアルバム・チャートでも初登場1位を記録した今作。ニュー・ウェイブを思わせるほどに図形化されたイントロから、16ビートを媒介にロックの高揚の地平を描き上げる“Who’s Your Money On?(Plastic House)”しかり、ソウル〜AORにも通じるリズムやサウンドの質感を帯びた“Totally”しかり、自らの音楽表現の可能性を刻一刻と拡張していこうとするマインドは、ロック一徹な一路邁進感とは無縁のものだ。
しかし、彼ら4人が組み上げるアンサンブルにはすでに、「触れるものすべてがインヘイラーの音楽になる」という確信めいた磁場が備わっている。晴れやかな躍動感に満ちた“My Honest Face”で奏でられる、快楽中枢を激しく研磨するような壮麗な音響。”Cheer Up Baby”のソリッドな疾走感にも“Slide Out The Window”で繰り広げる陶酔必至のサウンドスケープにも高次元の輝きとスケール感を与えてみせる、イライジャのボーカル・ワーク。イライジャの父=U2・ボノの存在すらも、今作の目映さを形作るための必然だったのでは? と発想を逆転させそうな勢いが、この音には備わっている。
「ロック・ミュージック、ギター・ロックは、沈んでもしばらくすると再び浮上してくる」――本誌8月号に掲載されたインタビューでイライジャが語っていた言葉はそのまま、ロック新時代を告げる何よりリアルな宣誓そのものだ。(高橋智樹)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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