現代のUSインディロックにおける輝ける才能のひとり、リンジー・ジョーダンによるスネイル・メイルが新作とともに帰ってくる。絶賛された前作『ヴァレンタイン』(21年)から約4年半ぶりだというから、ずいぶん間が空いたようにも感じられる。
だがその間、表現者としての彼女の歩みは止まっていたわけではない。日本でもみずみずしいステージを見せてくれたツアーはもちろん、とりわけ記憶に新しいのはA24のクィア映画『テレビの中に入りたい』(24年)に俳優として出演したことだ。
同作はトランスジェンダー女性でありノンバイナリーである監督ジェーン・シェーンブルンのクィアとしての体験を抽象化して表現したインディ作品で、リンジーはテレビ番組のキャラクターとして重要な役柄を担っていた。サウンドトラックでザ・スマッシング・パンプキンズの“トゥナイト、トゥナイト”の鮮烈なカバーを披露したことも話題になった。インディシーンにおいても、クィアカルチャーにおいても、さらなる存在感を見せているのだ。
そして、満を持してリリースされる3作目『リコシェ』は、アーティストとしてのリンジーの成熟を見事に結実させた一枚となった。今作ではまずピアノかギターで作曲をし、そのあと1年かけて歌詞を書くという手法を取ったとのことで、つまりソングライティングにグッとフォーカスした内容になっているのだ。
90年代オルタナの正統な後継としてのギターロックはそのままに、彼女の内面はよりデリケートで深みのあるメロディと歌唱で表出する。何でも映画『脳内ニューヨーク』(08年)などに影響を受けて「生きること」そのものを熟考したそうだが、不安や喪失といったテーマが、ここでは穏やかなアレンジでそっと受け止められるようだ。
思えばスネイル・メイルは、10代でデビュー作『ラッシュ』(18年)を発表しアイコニックな新星として注目を集めた存在だった。そんな彼女がいま、徹底的に音楽と人生に向き合い、『リコシェ』の柔和な境地にたどり着いたことは感動的だ。引き続き、このアルバムに宿る複層的なエモーションを探りたい。 (木津毅)
スネイル・メイルの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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