11月30日、シェイン・マガウアンが亡くなってしまった。享年65。家族に見守られながらの穏やかな最期だったという。
英国ケントでアイルランド人の両親の間に生まれたシェインは、18歳の時に出会ったパンクに衝撃を受け、そのスピリットを自らのルーツであるアイリッシュミュージックと融合することを思いつく。それが1982年のザ・ポーグスの結成である。2nd『ラム酒、愛 そして鞭の響き』(1985)、3rd『堕ちた天使』(1988)といったアルバムがその代表作だ。後者に収録された“ニューヨークの夢”は、クリスマスソングの定番として今もなお街に流れ続けている永遠の名曲である。
シェインはアイルランド人としてのアイデンティティを忘れなかった。アイルランドの伝統と文化を継承し伝えていくことを使命として、生涯アイリッシュミュージックしかやらないと誓った。だが、彼自身はアイルランドに生まれ育ったわけではない。「故郷」であるはずのアイルランドを外から見る立場だった彼の歌は、それゆえ美しく純粋でロマンティックな「望郷の歌」であり続けたのだった。いくら想い続けても、決してそこには戻れない。いわば幻想としてのアイリッシュミュージックである。彼の並外れた音楽的才能と詩人としての魂が、それを世界中の人々が共有可能な普遍的ポップソングに昇華した。
2014年にポーグスが解散して以降、これといったシェインの音楽活動は伝えられていない。2020年に製作されたドキュメンタリー映画『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』では、車椅子を使い、歌も言葉もおぼつかない彼の様子が映し出されていた。長年のドラッグとアルコールで、シェインの体はもうボロボロだったのだろう。
2023年は本当にひどい年で、内外を問わず素晴らしい音楽家たちが次々と亡くなった。そのつど大きなショックを受けるが、自分と同世代で、音楽体験も似通ったシェインの死は、とりわけ堪える。でも残された音楽を聴けば、いつでも彼に会える。その魂が、いつまでも安らかならんことを。 (小野島大)
シェイン・マガウアンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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