アメリカではバレンタインデーの封切り前の映画評論家やエンタメメディアのレビューは厳しめ、PG-13でスーパーヒーローも出てこない伝記映画。レゲエの神様、ボブ・マーリーのバイオピック『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)同様、大ヒットは見込まれていなかった。それが、ふたを開けてみたら2週連続興行成績1位、世界的に予想を大きく上回る大ヒットになった。これも、クイーンに劇的な再評価をもたらした映画と同じだ。
少し違うのは、ボブは欧米やアフリカ諸国では学校で習うような「偉人」のカテゴリーに入っていること。カリブ海に浮かぶ小さな島、ジャマイカから1960年代に生まれたレゲエは、いまでも世界のポップミュージックに影響を与え続けている。ボブは前身であるスカ期から歌い始め、70年代にイギリスを経て、いっきに世界にその独特のリズムと汎アフリカ主義をベースにした思想、誇り高きラスタファリアンの生き方までも紹介した。
と同時に、ジャマイカ国内の政治闘争に巻き込まれて銃撃に遭い、多くの恋をし、病を抱えながらコンサートで政敵同士をも握手させた。そして、その間に名曲の数々を生んだのだ。36年の短い生涯と、成し遂げたことのボリュームが合わない。
監督のレイナルド・マーカス・グリーンは1977年の『エクソダス』の制作に焦点を当て、複雑な彼の人生をスケッチしていく。主演のキングズリー・ベン=アディルは完璧にジャマイカ訛りのパトワを操り、ボブのカリスマ性を再現。ロンドンのシーンではザ・クラッシュやミック・ジャガーも一瞬、出てくる。もっともきわ立つのは、ボブ・マーリーの歌声といまの時代にこそグサッと刺さる言葉だ。
今回、字幕の監修と日本でのみフィジカルがリリースされるサントラの新規対訳で歌詞に向き合い、言霊の強さに改めて驚いた。ヒットの理由は、ストリーミング時代にも強さを発揮している名曲の奥になにがあるか、多くの人が知りたかったからだろう。演奏シーンはさながらフィルムコンサートだ。5月17日に日本で公開されたら、ぜひ音響のいい映画館で観てほしい。 (池城美菜子)
ボブ・マーリーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
Instagramはじめました!フォロー&いいね、お待ちしております。