ロッキング・オン最新号、表紙巻頭はボブ・マーリー。伝記映画で今再び脚光を浴びる彼の1975年決定版インタビュー、10の名曲、映画ロングレビューなど、偉大なるレゲエアーティストの魂に迫る!

ロッキング・オン最新号、表紙巻頭はボブ・マーリー。伝記映画で今再び脚光を浴びる彼の1975年決定版インタビュー、10の名曲、映画ロングレビューなど、偉大なるレゲエアーティストの魂に迫る!  - rockin'on 2024年8月号 中面rockin'on 2024年8月号 中面

今年で没後43周年を迎えたボブ・マーリー。伝記映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が日本でも公開されたこともあり、ボブの偉業を改めて見直す機運も盛り上がるはずだ。とはいえ、彼の死後にリリースされた1984年のコンピレーション『レジェンド』などは世界規模で2500万枚以上のセールスを誇っていて、もはやボブとそのレゲエは十分に世界に浸透しているものだともいえる。

しかし、70年代においてボブやレゲエは、特に日本のリスナーにとっては謎の存在だった。それが広く日本でも紹介されるようになったのは、パンクロック、ポストパンク、ニューウェイヴという流れの、いってみれば当時のイギリスのオルタナティブロックの一環としてのものだった。カリブ海系の移民を数多く抱えていたイギリスでは、スカ、レゲエ、ダブはすでに移民たちの音楽として定着していたものの、白人のオーディエンスが率先して聴くようになったのは、パンクロックやポストパンクの隆盛があったからだ。それはレゲエがパンクやポストパンクと同様、基本的に反権力的なメッセージや性格をはらんだ表現だったからだ。

当時、初めて聴いたボブのアルバムは、映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』でもその制作風景が詳細に描かれている77年の『エクソダス』で、そのリズム、サウンド、バンドパフォーマンス、メロディ、ボーカルパフォーマンス、歌詞と全てが衝撃的に素晴らしかった。それもそのはずで、映画でも描かれている通り、このアルバムをきっかけにボブはジャマイカだけでなく、世界のリスナーへ自分の歌を伝えることに打って出たからだ。ただ、それと同時にこのアルバム以降、ボブの音楽性は日和ったともよくいわれていた。それはこのアルバムまでのボブの作品は概ね反権力的で攻撃的な内容の楽曲が多かったからだ。

『エクソダス』において前半はこれまで表現してきたような、社会や経済、政治の不当さ、あるいはラスタファリ思想について触れた名曲が揃っている一方で、B面となる後半では、官能や関係性、あるいは愛について歌う楽曲が集められていた。そして、もちろん、どの曲も切なさが溢れる名曲になっていた。

たとえばボブは74年の『ナッティ・ドレッド』に男女の絡みを切なく歌い上げる名曲“ノー・ウーマン、ノー・クライ”を収録していて、これはすぐにライブでも定番となったレゲエバラードだが、しかし、この曲はあくまでもトレンチタウンという都市の貧困の中で肩を寄せ合って生きるふたりについて歌うものだった。

しかし、それに対して『エクソダス』のB面曲は、どれもれっきとしたラブソングであり、場合によっては性愛についても踏み込んでいると感じられるものにもなっていた。そして、そうした曲においてもボブの特異な歌詞と卓越したボーカルがそれを純愛として伝えるものになっていたところがすごいところなのだ。

もともと恋多き人だったともいわれるが、基本的には妻のリタ・マーリーとの関係や思いを歌ったものがほとんどなのだろうと思う。ただ、このラブソング群をここまで集めるというのは画期的な新機軸だったはずだ。あるいはボブはかなりの曲を書き溜めていて、改めてレコーディングし続けていたともいわれるので、この『エクソダス』はこうしたラブソング群を取り上げる大きな契機となったのは間違いない。では、なぜこのアルバムがその契機となったのか。その背景を探るのが今回の映画のテーマになっている。

個人的にはぼくはこのB面からまずはボブの楽曲とパフォーマンスの虜になった。そして、それに引きずられてA面の、これまでの既定路線に近い、社会的なメッセージやラスタファリ思想について触れるボブの楽曲の魅力にも取り憑かれるようになった。おそらく似たような経験をしたリスナーは世界中にいるだろうし、78年のライブアルバム『バビロン・バイ・バス』を手に入れた時には、ここで聴ける観客の大歓声は自分の感動と同じものだと確信できた。

言うまでもないが、ボブのすごさは、その傑出した才能にある。歌、楽曲、パフォーマンス、リズム、カリスマとその全てにおいてである。その片鱗に今回の特集で少しでも触れられれば幸いだ。(高見展)




ボブ・マーリーの巻頭特集は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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