日経ライブレポート「ポール・ウェラー」

ポール・ウェラーは現在59歳。キャリアもザ・ジャムスタイル・カウンシル、そしてソロと多様だ。そんなベテラン・アーティストのライヴとしては、ほぼ理想形ともいえるステージだった。

過去の代表曲はしっかりと演奏するが、決して懐メロのようにはならず、現在のポール・ウェラーを感じさせるパフォーマンスで聴かせてくれた。最新作からも演奏するが、それが今の自分を過剰にアピールする押しつけにならず、絶妙なバランスでセット・リストに組み込まれているのも素晴らしかった。

バンドがツアー中で、とても仕上がっていた。楽器のアンサンブルは完璧で、どの楽器の音もしっかりと客席まで届き、聴いていてとても気持ちがいい。ほとんどMC(トーク)なしで33曲が2時間強で演奏されるスピード感のあるステージなのだが、勢いで押し倒す感じはなく、一曲一曲が丁寧に届けられていく。

最新作『ア・カインド・レボリューション』はポール・ウェラーのルーツであるソウル、R&B色の強い作品であった。今回のステージはその最新作のモードが強く反映されていた。それは過去の作品を演奏する時もそうだ。

彼にとってのソウル・ミュージックの重要さは今更説明の必要のないことだが、今回のステージはそれを改めて認識させるものだった。長いキャリアの多様な楽曲が、ソウル・ミュージックという強い軸を通すことで一つの大きな流れとして感じられ、ステージに統一感を与えていた。

この夜、東京は大雪で帰りの足が心配だった。だからこそなのか、お客さんの、ここで盛りあがらなければという熱が高かった気がした。1月22日、EXシアター六本木。

(2018年2月14日 日本経済新聞夕刊掲載)
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