この世界に「もし」はないけれど、「もし」ユニゾンがアリーナツアーをやりたいと思えば、それがやれるポジションにすぐに行けるだろう。
「もし」ヒットシングルが満載のアルバムを作ってチャートの若手バンドNo.1のポジションに立とうと思えばすぐに立てるだろう。
あるいは逆に「もし」マニアックな楽曲と誰も真似できない演奏スキルの高さでライヴハウス・シーンの神バンドになろうと思えばすぐになれるだろう。
ユニゾンにその才能と実力が備わっていることはファンなら分かっている。
だが、彼らはそのどれもやらない。
なぜなのか。
それは彼らが「現代におけるまっとうなロックバンド」であることを目標としていて、それ以外の目標設定をしていないからだ。
そして、その目標設定に合うことはやる、合わないことはやらない。
ユニゾン・スクエア・ガーデンは今の若手バンドの中で特殊な位置にいるように見えるが、その姿勢は非常にシンプルでストレートだ。
「まっとうな少数派」なのである。
(そしてこれは蛇足だが、彼らのようなまっとうなバンドが少数派であるということ自体が音楽シーンに対する本質的な批評になっているし、その批評的な立ち位置においてファンを着実に増やして価値観を共有していくというやり方は極めてロック的であり、そういう意味でも彼らはまさしく「まっとうな少数派」なのである。)
この新作『Dr.Izzy』に収録されたシングルは“シュガーソングとビターステップ”1曲のみ。
アルバム全体のバランス、ストーリー性、アレンジ・演奏はもちろん曲間のタイミングまで、あくまで1ロックバンドの1枚のロック・アルバムとしてのカッコよさにフォーカスが絞られている。
アルバムが始まってから最後の曲が終わるまで息がつけないみたいな、ロック・アルバムならではの緊張感・スピード感・覚醒感が詰まっている。
しかもボカロやアニソン、アイドルを含めたポップの現在をふまえた、アップデートされたロックだ。
そしてこのアルバムを携えたツアーはスタジアムやアリーナではなくまたもホールをメインに44本を回るという。
この「まっとうな少数派」の姿勢はおそらく時代の1歩先を行っていると思う。(山崎洋一郎)
(ロッキング・オンJAPAN7月号 UNISON SQUARE GARDEN記事より転載)