アーティストにインタビューするとき、その作品を何回聴けばいいのか?

今月号で僕はバンプ・オブ・チキンと宮本浩次とUNISON SQUARE GARDENとWANIMAのインタビュー、そして石野卓球単独での「メロン牧場」をやりました。
思えばもう30年以上もこの仕事をやっていて、インタビューした回数も2000回を超えるのですが、インタビューするという行為はいまだに少しばかりの勇気が必要です。
なにしろそのアーティストやバンドが心血を注いで作った作品に関して本人に言葉を投げるわけですからね。勇気なしではなかなかできません。
その作品にふさわしい言葉で語れるか、その作品にふさわしい切り口で質問できるか、ということには自信があったとしても、それを本人がどう受け取るかまではやってみないとわからない。そこに挑むための勇気が必要なのです。
 
逆に言えば、誰でも思いつく言葉や切り口で無難に話を進めるだけのインタビューなら、そんな勇気は必要ないでしょう。
その代りに、そういう場合は「緊張」するんだと思います。
自分なりの見解や言葉を持たずにアーティストと向き合うのは、それは緊張するでしょうね。僕には無理です。
 
インタビューといえば、よく読者の人に
「どうして音楽を聴いただけでそんなにいろんなことがわかるんですか?」
「どうすれば音楽を〈わかる〉ことができるんですか?」
というようなことを訊かれることがあります。
 
その答えは、音楽を〈わかる〉とか〈わからない〉というのはありません、ということです。
音楽を聴くということは、例えば森の中を散歩したり、海に潜ったりすることと基本的には同じです。
森の中を歩いて、その体験を「わかる/わからない」というふうには判断しませんよね。
海に潜って、その光景を「わかる/わからない」というふうには判断しませんよね? 
そこで見て、感じて、思ったこと、それがすべてのはずです。
音楽を聴くとき、音が耳から流れ込んで、それが脳内に見せてくれる光景、その光景が生じさせる感情や、リズムが身体に生み出す力、それが全てです。
なので、ちゃんと耳を澄まして心を開いて聴けば、その体験がすべてで、「わかる/わからない」なんてこと自体になんの意味もありません。
「私はこの森がわかった」とか、「俺にはこの湖はわからない」と言ってるようなもので、むしろちょっとやばい人になってしまいます。
 
それから「インタビューする前に、その新譜を何回ぐらい聴くんですか?」という質問もよくされるのですが、これの答えは「ほとんど1回」です。
先ほど書いたとおり、耳から音を流し込んでそこで見て体験したことがすべてなので、何度も繰り返す必要は特にないのです。
小説家や映画監督に新作のインタビューをする前に、その小説や映画を何度も読んだり観たりしないのと同じです。

どうも音楽作品に関しては「何度も聴くことによってわかる」という固定観念があるみたいですが、音楽は純度が高いアートなので鳴っている音がすべてで、すべては鳴っている音そのままなのです。
最初から耳を澄ましてちゃんと聴けばすべてが見えます。その見えているものがすべてです。
インタビュアーとしては、その見えた光景や体験したものをふさわしい言葉に置き換えて、それをアーティストに投げかけながら会話を進めるわけです。
そしてそこにはやはり少しの勇気が必要なわけです。 (山崎洋一郎)



ロッキング・オン・ジャパン最新号「激刊!山崎」より
山崎洋一郎の「総編集長日記」の最新記事
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