先鋭性と人間味に溢れたトータルアート。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの最新ライブを観た!


絶えず先鋭的/エクスペリメンタルなオーディオ・ビジュアル体験でありながら、そこには極めて率直な揺さぶりをかける情緒とフィジカルな躍動感が渦巻いていた。最新アルバム『Age Of』を携えたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの、バンド・セットによるコンセプチュアルなショウ「M.Y.R.I.A.D.」。ニューヨークとロンドン(そとのときライブレポートはこちら→https://rockinon.com/news/detail/177975)で行われたパフォーマンスが、いよいよ日本にお目見えというわけだ。

約40分にわたるサポート・アクトを務めたのは真鍋大度。寄せては返すアンビエントなサウンドから次第にダンサブルなビートへと移行し、来場者の感性の窓を開いてくれる。いよいよのOPNライブでは、上手側からピアニストのケリー・モーラン、OPNことダニエル・ロパティン、キーボードetc.にアーロン・デヴィッド・ロス、そしてドラマーのイーライ・ケスラーという並びで、ケリーの奏でるクラシカルなフレーズが導く“Age Of”からスタートだ。

以前の、衝撃的なグリッチ・ミュージックを構築してゆくOPNライブと比較しても、今回の「M.Y.R.I.A.D.」は折り重なるシネマティックなアンサンブルに重きを置いていて、これは単にバンド・セットだからというよりは、人類の歩む文化の道筋を4つの時代に区分した「M.Y.R.I.A.D.」のコンセプトに依るところが大きい。洋の東西や時代を超越して鳴らされる、ノスタルジーを喚起して止まない旋律。そして音源よりもグッとOPNのフォーキーな歌心を前面に押し出した“Still Stuff That Doesn't Happen”や“Babylon”など、『Age Of』収録曲がショウの素材として再構成されているのだ。


華麗な鍵盤プレイで魅了するケリーもさることながら、実際に目の当たりにしなければ生演奏とは信じられないイーライの緻密で正確無比なドラム・プレイにも舌を巻く。そして、サンプリングやシンセ・サウンドを駆使し荘厳な音のレイヤーを生み出してゆくアーロン。OPNはときに、弓弾きのダクソフォンで不穏な音色を加える。そのパフォーマンスは、どうにも人間臭い思考と感情にまみれている。アノーニジェイムス・ブレイクFKAツイッグスらと交わって今やメインストリームになりつつあるOPNの支持基盤は、この斬新でストレンジな創造性を踏まえても伝わる人間味にこそあるのだろう。

取り返しのつかない情景を悲しげなメロディで歌うモダン・ソウル“The Station”は、そもそもアッシャーのために書かれたメロディが元になっていたそうだ。また、“Black Snow”では、カウボーイハットにレオタードという無闇にポップな出で立ちのダンサー5人が踊り、楽曲とのアンバランスな対比からはあたかも痛烈な皮肉が立ち上るかのよう。割れてズレたように設営された複数のスクリーンパネルには、奇妙な映像の数々がサウンドとシンクロして蠢き続けていた。


OPNが極めて先鋭的なアートを追求していることに疑いはない。しかし今回のショウにおけるそれは、数世紀も前の音楽家が携わったオペラのようでもあり、ジャズマンたちが即興演奏で紡ぎあげた映画のサウンドトラックのようでもある。時空をぐにゃりとねじ曲げ、不安や悲しみ、絶望といった、人類の普遍的な感情を抽出するパフォーマンスが、そこにはあった。本編ラストに届けられたビル・フェイのカバー“Never Ending Happening”は、まるでエンドロールのようだ。

アンコールは、ボーナスとばかりに過去のOPN作品から2曲が披露される。強い推進力をもたらすビート、そしてグルーヴの中で細やかにチョップされるコーラスやサウンドなど、バンド演奏でありながらも往年のOPNライブを彷彿とさせるエキサイティングな一幕をサービス精神旺盛に作り上げ、オーディエンスの大喝采を浴びるのだった。(小池宏和)


<SETLIST>
1. Age Of
2. Still Stuff That Doesn't Happen
3. RayCats
(Eli Keszler Solo Interlude)
4. Toys 2
5. Babylon
6. Manifold
(Kelly Moran Solo Interlude)
7. We'll Take It
8. Station
9. Love in the Time of Lexapro
(Aaron David Ross Solo Interlude)
10. Warning
11. Same
12. Black Snow
13. Last Known Image of a Song
(Interlude)
14. Never Ending Happening

(encore)
1. Child of Rage
2. Chrome Country
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