待望の新作『オリジンズ』完成! バンド氷河期にそれでも一人勝ちを続けるイマジン・ドラゴンズの強さとは

待望の新作『オリジンズ』完成! バンド氷河期にそれでも一人勝ちを続けるイマジン・ドラゴンズの強さとは

イマジン・ドラゴンズのニュー・アルバム『オリジンズ』が11月9日にリリースされる。前作『エヴォルヴ』が昨年6月リリースだから、その間わずか1年4か月! この1年ずっとツアーを回っていたイマドラの一体どこに新作を作る時間があったのか謎だが、とにかくワーカホリックでプロフェッショナルな彼らはアルバムを完成させてしまったのだ。ダン(Vo)曰く『オリジンズ』は『エヴォルヴ』の姉妹作とも言える一作だそうで、実際プロデューサーやスタッフ陣は前作からの継続組が大半であるようだ。


『オリジンズ』からはすでに2曲のシングルがリリースされている。“Natural”はイマドラのロック面を強調したヘヴィ・グルーヴ・チューンで、ダンのパワフルな歌唱とパーカッシヴなヒップホップ・ビートも含めて極めてアグレッシヴな仕上がり。一方の“Zero”はディズニー映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』のエンディング・テーマ曲であるのも納得のエレクトロ・ポップ・チューンで、イマドラのポップ面を象徴したナンバーになっている。どちらの曲も最高にキャッチーなアンセムで、『オリジンズ』も『エヴォルヴ』の流れを踏襲したポップ・ロック・アルバムになっていることが予想される。


2010年代のポップ・シーンにおいてロック・バンドが、ギター・ミュージックが勝ち残るためにはどうするべきか?――イマジン・ドラゴンズの前作『エヴォルヴ』は、まさにその答えたるアルバムだった。全米初登場2位から延々とロング・セールスを続け、ミリオン・セラーとなった『エヴォルヴ』は、ビルボードの年間アルバム・チャートで24位を記録。ロック・バンドのアルバムとしてはメタリカの『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』(12位)に次いで2位だった。

ちなみに、昨年の年間アルバム・チャートの上位50位に入ったロック・バンドのアルバムはメタリカ、イマドラ、そしてパニック!アット・ザ・ディスコの『ある独身男の死』(49位)とたったの3枚!シビア!そう、かくもシビアな現実において孤軍奮闘している希望の星的バンドが、イマジン・ドラゴンズなのだ。


現在、一般的に「ロック・バンド」とカテゴライズされるフォーマットはどんどん二極化が進んでいる。一方にはポップ・マーケットの現状を反映した音作りと戦略を徹底的に練り、状況に適応していくバンドがいる。もう一方にはサブジャンル化したロックをなおストイックに突き詰めていくバンドもいる。どちらが優れているのかという問題ではない。前者はストリーミング時代をサバイブするのに必須のマナーだが、後者も昨今のアナログ・リバイバルの立役者になっている。そしてイマドラはもちろん、前者の代表格だ。

しかも彼らはデビュー・アルバム『ナイト・ヴィジョンズ』(2012)の時点から、当たり前のようにその一極を突き進み続けているバンドだ。ヒップホップやR&Bはもちろんのこと、歌の良さを際立たせるアコースティックも、サビを効果的に盛り上げるエレクトロニクスも、ラテンやアフロ・ポップのフックも、そして破格のプレイヤヴィリティを証明するグルーヴィーなギター・ロック・サウンドも、使える武器は全て使って戦ってきたバンドなのだ。

例えば、ニューウェイヴ・サウンドから出発したザ・キラーズや、エモ・ブームの中から登場したパニック!アット・ザ・ディスコのように、キャリアの積み重ねの中でポップに適応してきた2000年代のポップ・ロック・バンドとは異なり、2010年代のイマドラは、最初からポップ・シーンのど真ん中にいた稀有なバンドだったと言っていいだろう。


そんなイマドラのロック・バンドとしての特異なポップ適応力が最もダイレクトに反映されているのが、彼らのずば抜けた「シングル」の強さだ。彼らはこれまでにビルボードのシングル・チャート(※ロック・チャートではありません。ドレイクケンドリック・ラマーと同じ土俵で競う総合チャートです)に『ナイト・ヴィジョンズ』から“Radioactive”、“Damons”、そして『エヴォルヴ』からも“Beliver”、“Thunder”と計4曲のトップ10シングルを出している。

例えば昨年の『エヴォルヴ』と並ぶロック・アルバムといえば前述のメタリカの『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』とフー・ファイターズの『コンクリート・アンド・ゴールド』だろう。しかし、共にアルバム・チャートでは全米1位を制したこの2バンドの2作からはシングルで上位チャート・インした曲は1曲も出ていない。アルバムもシングルも売れているイマドラが特別なのだ。


アルバムに強いロック、シングルに強いポップというざっくりした傾向があるとしたら、イマジン・ドラゴンズはまさにそのふたつを手中に収めたハイブリッドだということになる。そして彼らの「ロック・バンド」としての強度をより確固たるものにしているのがライブだ。イマドラのライブの感想を述べ合う本国のファン・フォーラムでしばしば言及されているのが、「スマホで聴いていたものとは比べ物にならない」ということだが、それは今年1月の彼らの初単独来日公演を観た日本のファンにとっても、大きく頷ける感想だろう。時代に適応したハイブリッドなポップ・ロック・バンドであり、同時にその中心部には泥臭いほどのガッツとパッションがみなぎる、リアルな肉体性が宿っていること。普段はスマホ越しにカジュアルに寄り添い、ライブの場では胸ぐらを掴み上げるように迫ってくる、これこそがイマジン・ドラゴンズが勝つ理由なのだ。(粉川しの)

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