サム・スミスの3年ぶりの来日公演は、まさにバック・トゥ・ベーシックなエンターテイメント・ショウとなった。かつてカッティング・エッジなクラブ・サウンドと、お茶の間に訴求するポップスの間で揺れ動いていた彼は、最新作『スリル・オブ・イット・オール』を経てオーセンティックなソウル、R&Bを自身の軸として設定し直したわけだが、その確信の上でこそこのゴージャスかつジョイフルなエンターテイメントが花開いたのだと思う。
ファンキーなベースが効いた“Omen”や、ドラムスとキーボードでブレイクビーツを生み出していく“Money On My Mind”、ピアノで大胆なアレンジを加える“Latch”と、ディスクロージャーとのコラボ曲に代表されるクラブ・アンセムが、生バンドの厚みを最大限生かしたパフォーマンスによって再定義され、3万人以上のオーディエンスを前にポップ・アンセムとして生まれ変わっていく様は本当に楽しい。華麗にステップを踏みながら歌い、朗らかな笑顔でMCを繰り広げるサムのショウマンシップも、棒立ちでじっと伺うように客席を見つめていた東京キネマ倶楽部での初来日公演を思えば隔世の感だ。
「初めて日本に来た時、小さなヴェニューで歌ったんだよね。あの頃からずっとこの曲を歌うのが大好きなんだ」と言って始まった“Lay Me Down”は、細く絞られたピンスポの下でサムが絹糸のようなファルセットを震わせる美しすぎるパフォーマンス。今回の「エンターテイナー=サム・スミス」は、今も昔も変わらない彼の歌い手としての天賦の才能を背景とした進化形なのだとつくづく感じた。また、逆光の中でドラマティックに歌い上げる“Writing’s On The Wall”もまさに往年のディーヴァの風格だ。
そう、終始楽しく、温かなヴァイブに満ちたステージだったのだが、そんな中で最も心揺さぶられたナンバーが“Him”だ。「神父様、話したいことがあるんです。僕が愛しているのは“彼”なんです」とダークなゴスペルに乗せて歌う“Him”は、サムが初めて正式にカミングアウトしたナンバーだ。「僕もみんなも、自分らしくあることにプライドを持とう」というメッセージと共にレインボー・カラーに包まれて幕を閉じた同曲の余韻には、サム・スミスがこの開かれたエンターテイメントにたどり着くまでの葛藤と哀しみが昇華されていたと思うのだ。(粉川しの)
<SET LIST>
1. One Last Song
2. I’m Not The Only One
3. Lay Me Down
4. I Sing Because I’m Happy
5. Omen (Disclosure feat. Sam Smith)
6. Nirvana
7. I Told You Now
8. Writing’s On The Wall
9. Latch (Disclosure feat. Sam Smith)
10. Money On My Mind
11. Like I Can
12. Restart/The Best Things In Life Are Free
13. Baby You Make Me Crazy
14. Say It First
15. Midnight Train
16. Him
17. Promises (Calvin Harris feat. Sam Smith)
18. Too Good At Goodbyes
encore
19. Palace
20. Stay With Me
21. Pray