ティーンエイジ・ファンクラブの約2年ぶりの来日、その初日となるDiver City公演前にノーマンとレイモンドにインタビューさせてもらったのだが、色々話を訊く中で彼らが言っていたのが、今後は脱退したジェラルドの曲はライブでやらないということ、そして新加入のエイロス・チャイルズと既に新曲を作り始めているということだった。
そう、昨年のTFCは期せずしてかなり波乱万丈で、初期のクリエイション時代のアルバムのリイシュー&クリエイション・イヤーズ・ツアーを行って結成30周年(ノーマン曰く「いつの間にか30年経ってたってだけ」)に向けたアニバーサリー・ムードを盛り上げていた最中、結成時からのメンバーであるジェラルド・ラヴの脱退が発表されたのだ。言うまでもなくジェリーはTFCの3人のソングライター&メイン・ボーカルの1人で、その彼が脱退した意味は大きいわけだけれど、今回のTFCのショウはその喪失を無かったことにはせず、彼らが新しい調和を模索している過程を正直に伝える、非常にTFCらしいパフォーマンスになったと言える。
流石に冒頭は少し寂しく感じた。やはり3人のメイン・ボーカルが織りなすコーラスの厚みや温かみはTFCの根幹を成すもので、今回は上手のスタンドマイク(デイヴが新たにベースを担当)がほとんど使われないため、下手側に音が滞留して聴こえる新感覚もしばしば。しかし、ノーマンとエイロスが新たなハーモニーを生み出した“Start Again”や、キーボードがイントロとアウトロを飾る“Only With You”など、徐々にアンサンブルが循環し始める。
そう、元ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキのエイロスは優れたソングライター兼ボーカリストであり、彼の加入はジェラルドの喪失を埋めると共に、新たな可能性をTFCに齎すもの。例えば新曲の“Everything Is Falling Apart”のアシッドなキーボードが前面にフィーチャーされたサイケ・グルーヴは、まさにエイロスとノーマンたちの化学反応の賜物だった。ノーマンとレイモンドがことあるごとに向き合い、丁寧にキーとコードを確認しあう様もグッときた。
今回のツアーは各時代のアルバムからバランス良く選曲され、レア曲から定番曲まで押さえたフレンドリーなセットなのだが、それが新生TFCによってリデザインされていくという意味で貴重かつ新鮮なライブ体験だったと思う。(粉川しの)