80年代のデヴィッド・ボウイを、ふと聴きたくなる理由。『トゥナイト』は今だからこそ聴くべき名盤だ!

80年代のデヴィッド・ボウイを、ふと聴きたくなる理由。『トゥナイト』は今だからこそ聴くべき名盤だ!

デヴィッド・ボウイの全キャリアの中でも、『レッツ・ダンス』『トゥナイト』『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』あたりは、あまり積極的に語られることのないアルバムである。実際、80年代のその当時、洋楽を聴き始めたばかりだった私にしても、遡って聴いたベルリン3部作や『ハンキー・ドリー』『ジギー・スターダスト』など初期アルバムほどにはのめりこめなかった記憶がある。

でも、ここ最近ふと『トゥナイト』を聴きたくなることがあって、改めて聴き返してみたのだけれど、これが意外なほどに良いアルバムだったので2018年のリマスター盤も聴いてみることにしたのだった。なぜ『トゥナイト』を再び聴きたくなったかというと、ごく感覚的なことではあるのだけれど、アークティック・モンキーズの『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』を聴いていて、その思い切ったサウンドの変化に、ボウイの『レッツ・ダンス』や『トゥナイト』的なものへの変化と近しいものを感じたからだった(もちろんそれぞれサウンドはまったく別物なんだけど)。ではなぜ、アークティック・モンキーズのそれはリアルタイムで評価され、受け入れられて、ボウイの『トゥナイト』は評価されなかったのだろう、というのがごく個人的な思考の流れだった。

時代がひとまわりしたからなのかもしれないが、今『トゥナイト』がとてもいい感じに響く。ザ・ビーチ・ボーイズの“God Only Knows”のカバーでの、ストリングスやホーンを交えたアレンジに乗る深い歌声や、ティナ・ターナーをゲストボーカルに迎えたレゲエアレンジの表題曲にしても、ベースが牽引するリズム感やマリンバの響きなど、現代にとても心地好く聞こえるから不思議だ。最新のリマスター音源で聴くと、さらにサウンドがブライトになっているからか、楽曲の輪郭が明確に照らし出されるのと同時に、そこに潜む影や切なさもより深く感じられる気がして、非常に立体的なデヴィッド・ボウイの歌声を楽しむことができる。非常に良い。

いつもデヴィッド・ボウイを聴こうと思う時に、この作品をどちらかというと後回しにしてきた自分を悔やんだ。そして、デヴィッド・ボウイという人は、その作品の真価を人々が後から理解するタイプの、真のアーティストだったのだなあと改めて思い知る次第。アークティック・モンキーズの、というか、アレックス・ターナーの劇的な変化は、自分自身のモードとともに時代の変化にも目を向けてのものだからこそ、そのチェンジのタイミングはナチュラルだし見事に時代に則したものだと思うが、ボウイの変化はどこまでも自身の内面にある変化を表出したものだからこそ、そこに時代の理解が追いつくのに時間がかかる。

しかもこの時期はボウイにとってキャリアの中でも最大の過渡期であり、80年代という特異な時代にあって彼自身にも迷いがあった時代なのだと思う。そんな中で、特に語られることの少ない作品が『トゥナイト』なのだが、その「模索の時代」が今とてもまぶしく感じられる。そんな、忘れ去られた名盤として、今こそ新鮮な気持ちで聴いてみてほしい。必ず新しい発見がある。(杉浦美恵)

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