J. バルヴィン、バッド・バニー、オズナ――2018年にYouTubeを制覇、2019年コーチェラも盛り上げたラテンアーティストが全米で大成功している理由

2019年のコーチェラ・フェスティバルのラインナップは、人種の多様性が過去最高に豊かになっていた。Perfumeが日本語の曲で世界一のフェスのステージに立ったことも画期的だったが、コロンビア出身のレゲトン・アーティスト、J. バルヴィンとプエルトリコ出身のラテントラップ・アーティスト、バッド・バニーもまた、スペイン語の曲で10万人を超える観客を盛り上げた。バッド・バニーは最後のMCまでスペイン語を貫き、「自分たちの言葉を話してここまで前進してきたラテンコミュニティーをとても誇りに思う」と語り、大歓声を浴びていた。


それからDJスネイクのステージでは、現在YouTubeで世界一の総動画再生数を誇るプエルトリコ出身のラテントラップ・スターであるオズナが、カーディ・Bとセレーナ・ゴメスとともに飛び入りして、2019年の最大のヒット曲の一つ“タキ・タキ・ルンバ”を披露。ハイライトを作った。「Rolling Stone」誌は、「16のコーチェラ・ベスト」の一つに「レゲトンが砂漠を征服」を挙げ、「2019年はレゲトンの年だ」と断言している。


しかしYouTubeでコーチェラの生配信を見ていた人の中には、なぜ英語で歌わないラテン・アーティスト達がこんなに受けているのかと不思議に思った人もいるのではないだろうか。リッキー・マーティンやシャキーラ、エンリケ・イグレシアスなど、これまでに日本でも人気になったラテン・スターはいる。けれど過去のラテンアーティストは、南米でどれだけ成功を収めていても、アメリカ、ひいては世界的にデビューする際には「英語曲」を発表するのが通例だった。これに対し、現在のラテン・スターは言語を変えずにアメリカでもスターになることに成功している。

オズナ、J. バルヴィン、バッド・バニーの3人は、2018年のYouTubeのミュージック・ビデオの年間再生回数トップ10に入っていた。しかも10曲中4曲は、オズナの曲かオズナがフィーチャーされた曲。10位以内に入った英語の曲は、なんとマルーン5の“ガールズ・ライク・ユー(feat.カーディ・B)”と、ドレイクの“ゴッズ・プラン”だけで、他8曲は全てスペイン語の曲だった。


アメリカの空前のラテン・ミュージック・ブームは、2017年に始まった。全米ビルボード・シングル・チャートで16週連続一位という記録を打ち立てた“デスパシート”(ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキー、 feat. ジャスティン・ビーバー)。この曲はジャスティン・ビーバーをフィーチャーしたリミックスがラジオでブレイクする前からYouTubeで大ヒットしており、再生回数50億回を突破して史上最高記録を樹立した。現在は610億回越えで、依然として最高記録を保持している。この曲のヒットに続き、ビヨンセをフィーチャーしたJ. バルヴィンの“ミ・ヘンテ”がiTunesで1位を獲得した。


2018年、ラテンブームはさらに加速。カミラ・カベロのソロ曲“ハバナ”が全米1位を獲得し、次にラテン系ラッパー、カーディ・Bの“アイ・ライク・イット”が全米1位の大ヒット。この曲にフィーチャーされたのが、J. バルヴィンとバッド・バニーの二人だった。そして2019年、2枚のアルバムを全米ラテンチャートで連続1位にしていたオズナが、DJスネイクの“タキ・タキ・ルンバ”にフィーチャーされて遂に全米シングル・チャートで1位を獲得した。


このラテンブームを強力にプッシュしたのは、ストリーミング・サービスだ。米国レコード協会によると、ラテン音楽のセールスは2018年に約46億円(4億1300万ドル)を達成。前年に比べて18%上昇した。同時に、スポティファイを始めとするストリーミングサービスが、50%近く売り上げを伸ばしている。ストリーミングの時代になったことで、大衆が好む音楽が、ラジオやビルボードのチャートよりも明らかに目に見えるようになったのだ。

ラテン・カルチャーが、ありのままの形でメインストリームで祝福される時代。これは、単にブームやトレンドとして片付けていい話ではないだろう。2017年以降、ラテン系移民を排斥しようとしているアメリカ政府とは真逆の動きが、音楽界で起こっている。アメリカで成功するために母国語を捨てて英語で歌うことが必須条件ではない時代が、訪れたのである。

2000年に、ラテン系はアメリカのマイノリティーの中で最大数を占める人種となった。この時は全人口の12%だったラテン系だが、2017年には人口の約18%に増え、約5750万人となったPew リサーチセンターの報告では、21世紀半ばまでにアメリカは「有色人種が多数派の国」になるという。比率としては、白人が46%、ラテン系が24%、アジア系が14%、黒人が13%と見積もられている。ラテン・スター達の驚異的な成功劇は、「マイノリティーがマジョリティ」という流れが、ポップ・ミュージック界ではすでに起こっている証なのだと思う。(鈴木美穂)
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