本作で佐藤が挑んだのは「過去の肯定」だ。それが顕著に表れているのが、《守れない約束なんてしないよ》というフレーズだろう。これを歌う佐藤の歌声も、そこから続くギターリフもあまりに切なく、聴く側は「この約束は果たされなかったのではないか」と思わされる。だが、ここで重要なのは実際にその約束が守られたかどうかではない。「守りたい」と強く願っていた事実なのだ。正論を展開するでも開き直るでもなく、出来事も感情も願いも正面から受け入れ、歌い上げること。それは、《あなたに出逢えた》、だから素晴らしいんだと、「今」にまっすぐ向き合い歌った“東京”の姿勢そのものだ。
“東京”で「今」を、本作で「過去」をありのままに受け入れたきのこ帝国。その点と点の先には、彼らの新たな世界があるだろう。本作は「過去の肯定」であり、それを成し遂げることで体現された「未来」への覚悟でもある。(林田咲結)