前号アルバムレビューズでは日本で体験したかったと書いたが、振り返ればピンク・フロイド最後の来日公演は1988年の大昔。2006年、2015年のデヴィッド・ギルモアのソロツアーの際も来日は無し。ステージセットや演出の機材など、すべてが巨大なスケールとなってしまい日本まで来れないのは容易に想像がつくが、悔しいものは悔しい。そんなことを改めて痛感させられるのが、今回リリースされるギルモアのライブ盤『ラック・アンド・ストレンジ・コンサーツ』だ。
ローマ、ロンドン、LA、NYなどで20回以上にわたり行われたライブがCD2枚に収められ、前ソロ作『飛翔(Rattle That Lock)』からの“午前5時の旋律”に始まり、全英1位に驚かされた最新ソロ『邂逅(Luck and Strange)』のナンバーが中心だが、とりわけ嬉しいのは大量のピンク・フロイド・ナンバーで、早々に昇天させてくれる“生命の息吹き”や“タイム”などの『狂気』の名曲を始め、最初期の『原子心母』やギルモアが主導した後期の『鬱』と『対(TSUI)』のナンバーがピックアップされている。
圧倒的に楽しいのは、かつては30万人の観客を集めたという古代ローマ最大の戦車競技場跡「チルコ・マッシモ」でのライブを収録した映像で、煌びやかでイマジネイティブなライティング、それに完璧にフィットしたバンドが日常を超えた時空へ観客を連れ出し、そこにギルモアのあのまったく衰えることのない、いや年齢を重ねることでさらに味わいを深めたギターワークが、観客それぞれが内面に持つドラマを広げていく。楽曲がアーティストと共に年齢を重ね、固有の世界観を発展させる奇跡の瞬間をロックファンたちは今も現在進行形で体験しているわけだが、このギルモアのライブもまたそんな貴重なものだ。
しかも『邂逅(Luck and Strange)』の大歓迎ぶりがギルモアのスイッチを入れたのだろう、すでに次作に向けプロデューサーのチャーリー・アンドリューやロブ・ジェントリー(Key)、ガイ・プラット(B)、アダム・ベッツ(dr)らが召集されているという。もちろん形になるのはしばらく先のことだろうが、物語はまだまだ続いていく。(大鷹俊一)
デヴィッド・ギルモアの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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