ロックンロール原理主義

アークティック・モンキーズ『アット・ジ・アポロ』
発売中
DVD
アークティック・モンキーズ アット・ジ・アポロ
異様なロック・ライブ映像である。まず、なんでこんなに暗いのか、そしてなんでこんなに静かなのか。フランス映画みたいなレトロなオープニングに続いていきなり“ブライアンストーム”が始まったときは、あまりに静かなのでリハかと思った。普通、この手の映像だと客席の歓声を拾って臨場感を煽るものだが、それがないのだ。映像もそうで、客席はほとんど映らないし、カメラワークもきわめてシンプル。劇的に見せようという色気が、一切ない。それなのに、最初の一音が鳴った瞬間からいきなり膨大なエネルギーをもったロックンロールがぶんぶん飛んでくる。まるでテロみたいだ。そして、そのテロみたいなロックンロールだけの力で、時間を追うごとに会場全体が沸騰してくるのが分かる。

一度でも観たことがある人は分かると思うが、このサルたちのライブは愛想がない。MCも一言か二言で、サービス・トークのようなものは一切ない。しかし、演奏が始まると食い入るように観てしまう。鳴らされるロックンロールの熱が半端ではないからだ。つまり、このバンドには4人でロックンロールをやるということがいつでも最優先事項としてあり、それがすべてなのだ。ハコの形とか、客席のキャパシティとか、照明のセッティングとか、その他の要素については極限まで意識から排除されているとしか思えない。いま、そんなことができるのはアークティック・モンキーズだけだ。他の何物にもよらない、ロックンロールのためのロックンロール。その驚異を「目撃」するためのDVDだ。(小川智宏)
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