デビュー曲“ミカヅキ”から始まり“birthday song”で締めくくられるファースト『ミカヅキの航海』。これを聴くと、さユりがある感覚を歌い続けていることに気づく。“ミカヅキ”は欠けては満ちる月がモチーフ。“平行線”は交わらないはずのふたつの線が太陽系の外で交われればと願う曲。“birthday song”では、その日が誕生日の人もいれば命日の人もいると歌う。届きそうで届かないもどかしさ。いい時もあれば悪い時もあるとわかっていても、穏やかでいられない感情の揺れ。プラスとマイナスがせめぎあう、そんなテーマを曲にしてきた彼女が、後悔をむしろエネルギーにして航海に出るというコンセプトで最初のアルバムをまとめたのは、よく理解できる。欠けた月が満月を求めて旅するイメージである。

ギターやキーボードが暴れ回り、激しいリズムが鳴らされる場面もある。太陽系の外や来世といった異世界を想像する彼女の冒険心が音になっているのだ。そのサウンドの中心に、微妙な揺れを含んだ歌声で、言葉にしきれない感情まで表現するさユりがいる。彼女は、高い波でも負けずに航海を続ける。（遠藤利明）