名作ゆえに必ず見つかる、自分の好きな別バージョン

ボブ・ディラン『モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ・シリーズ第14集) デラックス・エディション』
発売中
BOX SET
ボブ・ディラン モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ・シリーズ第14集) デラックス・エディション

ボブ・ディランの最高傑作ともいわれる『血の轍』。その制作時のセッション音源を掘り返すというコンピレーションが本作だ。オリジナル・アルバム収録曲に対応する、際立った音源を1トラックずつ選んだ内容の「通常盤」、そしてセッション全体の流れを追ったCD6枚組のボックス・セットがリリースされるが、どちらもこのアルバムの重要性をひもとく素晴らしい内容になっている。

そもそもなぜこのアルバムはそれほどの傑作といわれるのかというと、62年にレコード・デビューして以来、ボブのシンプルなギターの弾き語りに近いパフォーマンスとごくごくパーソナルな内容の楽曲とが初めて一体化した作品だからだ。ボブはデビュー時にはプロテスト・ソングを軸とするフォーク、それから極めて現代的な心象を追い駆けるロック、その後は反時代的なカントリーなどと活動を続けてきていて、こうしたストレートな作風はこれが初めてのことだったのだ。楽曲の傾向としては前作『プラネット・ウェイヴズ』からパーソナルな方向に向かってはいたが、それが極まったのがこのアルバムで、しかも、さまざまな事情によりたまたまこの作品でボブは基本的にギター一本という自分の原点に立ち戻ることにもなったのだ。

楽曲の内容は当時崩壊しつつあった妻サラとの関係をインスピレーションにしたものが多く、そのどこまでも赤裸々な内容とこのパフォーマンスがあいまって不動の名作となった。ただ、ボブは当時、個人的な内容を通して普遍的な視点を獲得するというアプローチを模索していたとも語っていて、したがって当時からこの作品は個人的なものではないとも説明している。しかし、この内容はどう考えても痛々しいほどにパーソナルだし、それがこの時の演奏によってさらなる域に達して最高傑作と呼ばれるほどの作品となったのだ。

そのセッションの全容を解き明かすというのが今回の作品の内容だ。セッションはまず74年9月にニューヨークで行われたのだが、実はオリジナル・アルバムではその後12月に新しく行われたセッションの5曲が収録されている。9月の段階の音源について弟のデヴィッドからストイック過ぎるとの指摘があったからで、デヴィッドがミネアポリスで招集したバンドによってその5曲がレコーディングされ直したのだ。したがって9月の時点で完成していた本来の全体像が確認できるというのが今回の作品の聴きどころで、本当に心に染み入る内容になっていて発見が多い。通常盤でもデラックス盤でも、この傑作が好きなら発見はなにかしらあるはずだ。(高見展)



『モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ・シリーズ第14集)』の各視聴リンクはこちら

ボブ・ディラン『モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ・シリーズ第14集)』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ボブ・ディラン モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ・シリーズ第14集) デラックス・エディション - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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