「僕らの閉塞と解放」を描くポップの凄味

トゥエンティ・ワン・パイロッツ『トレンチ』
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ALBUM
トゥエンティ・ワン・パイロッツ トレンチ

トータル650万枚セールス&グラミー「最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」受賞も実現した前作『ブラーリーフェイス』から約3年半。その「ストリートとポップ・シーンの真ん中ややポップ寄り」だった音像のバランス感を、トゥエンティ・ワン・パイロッツは大きくストリート寄りに転換しながら、独自のコンセプト・アートを展開してみせた。

9人の司教が治める「架空の街=DEMA」を舞台に、主人公:クランシーが抑圧からの脱出を目指す、というRPG的な世界観を、絶叫渦巻くハイブリッド・オルタナ(“ジャンプスーツ”)、ダークなヒップホップ・ナンバー(“レヴィテイト”)、曇天の下で鳴り渡る雄大なアンセム(“ザ・ハイプ”)、レゲエ/ダブ越しに描くサイケな闇(“ニコ・アンド・ザ・ナイナーズ”)……といったサウンド・デザインをもって曲ごとに描き分けながら、あたかも今この時代丸ごとそのストーリーテリングの中に巻き込んでいくような閉塞と焦燥のポップ絵巻を繰り広げていく。“ヘヴィーダーティーソウル”、“ストレスド・アウト”とシリアスなワードが冠されていた『ブラーリーフェイス』のサウンドをアレンジ/ミックスともに格段に研ぎ澄ませ、その物語性も含めVR体験さながらのパーソナルな没入感を可能にしているのが印象的だ。

それこそデビュー当初のヒット曲“ガンズ・フォー・ハンズ”の時点からタイラー&ジョシュは、ヒップホップもインディ・ロックもパンクもエレクトロも自在にコラージュしながら唯一無二の極彩色のカオスを描く挑戦精神に満ちていた。そして今、彼らの燃え盛る探究心は、これまで呼吸し体現してきた多彩な音楽のテクスチャーを原型なきまでに融かし尽くし、その音の質感と併せて自らの綴る世界を目の前に屹立させるツールとして完全にコントロールするに至っている―ということが、今作の中で有機的に絡み合う14の楽曲からは揺るぎなく伝わってくる。

憂いに満ちたスペクタクルは終盤、タイラーのアグレッシブなラップが冴え渡る“ペット・チーター”、包容力あふれるミドル・バラード“レジェンド”を経て、最後の“リーヴ・ザ・シティー”では壮麗なクワイアとピアノの響きでもって聴く者すべてを「DEMA」の風景から自由にしてみせる―。“ジャンプスーツ”をはじめ、その内容に合わせてトータル・コーディネートされたミュージック・ビデオの映像世界とともに、「囚われの僕らの解放の物語」を時代に刻み込んでみせた今作は、ビートルズピンク・フロイドから続くコンセプト・アルバムの歴史を「その先」へとつなぐ重要な作品だ。(高橋智樹)



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トゥエンティ・ワン・パイロッツ『トレンチ』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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トゥエンティ・ワン・パイロッツ トレンチ - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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