昨年で20周年の名作『ディザーターズ・ソング』(のシングル群)を想起させるジャケが示唆するように、彼ら流のコズミックなアメリカーナが再始動している。とはいえ単純な再訪ではなく、カルトな60〜70年代のカントリー歌姫:ボビー・ジェントリーのセカンドを丸ごとカバー、しかも1曲ごとに異なる女性シンガーを立ててメンバーは裏方に徹するというコンセプチュアルな作り。このボーカル人選、実にふるっている。90sインディ好きは悶絶する顔ぶれ(マジー・スターとステレオラブとスロウダイヴが1枚に!)からノラ・ジョーンズらネオ・ルーツ勢、ヴァシュティ・バニヤン&ルシンダ・ウィリアムスの贅沢なツートップ(コアな音楽好きである彼らのセンスの良さ&人徳全開)。「昔のカントリー」と書くと若い読者に誤解を招くかもしれないので念のために:ボビー・ジェントリーのそれ――オリジナルは68年発表――は制作時を反映したサイケさと、時間の止まった場=米南部のメランコリーが共存する独自なもの。それをそのままなぞるのではなく、M・レヴらしい細やかな仕掛けやロックさ、前衛ジャズ味等々を駆使した果敢なリアレンジが鳴る。その意味で、本作を聴いて気に入ったらオリジナルも聴いてみたくなる=理想的なカバーだと思う。
にしてもフェミニズム新波〜#MeTooが続くこの時期、ボビー・ジェントリーを引っ張り出してくれたのはとても嬉しい。彼女は自分で曲を書きプロデュースし、衣装やステージもデザインした。強引に言えばテイラーとガガが混じったような女性であり、そんなことを50年前にやっていた「歴史に埋もれた」先駆者を今の様々な世代の女性ボイスの解釈で聴くことで、若い女性が何かしらの霊感を得てくれたら最高だ。 (坂本麻里子)
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