メタリカが一夜限定でアコステってみたワケ

メタリカ『ヘルピング・ハンズ…ライヴ&アコースティック・アット・ザ・マソニック』
発売中
ALBUM
メタリカ ヘルピング・ハンズ…ライヴ&アコースティック・アット・ザ・マソニック

16年に渾身の2枚組アルバムを発表後、現在は長期のワールド・ツアーを敢行中のメタリカ。彼らの最新リリースとなる本作は、昨年
11月3日にサンフランシスコで行われた「一夜限り」のチャリティ公演の模様を収録したアルバム。しかも、メタリカ史上初となる「全編アコースティック!」のライブ盤だ。

メタリカは、これまでの音楽キャリアの中で、あまり表立ってはチャリティ活動をしてこなかった(見えない「裏」の場では、いっぱいしていたんだけどね)。でも、時代が変われば、社会も変わる。大統領も替われば、支援の形も変わる。そんなわけでメタリカは17年に意を決し、慈善団体「All Within My Hands Foundation」を立ち上げた。

基本システムはこうだ――メタリカがどこかの街でライブをやると、地元の慈善団体(フード・バンクやホームレス支援など)に1万ドルが自動的に寄付される。さらに、その団体の詳細情報がSNSを通じて拡散され、主旨に賛同した多くのファンはボランティア活動にも参加する。鍵は「地元密着」型の支援と、音楽ファンによる「コミュニティ」の絆を融合させること。言い換えると、「メタル・バンドとファンが本気になったら、この街のために何ができるのか、とことん見せてやろうじゃねーか!」ってことである。

今回のライブは、All Within〜の誕生1周年を記念して開かれたもので、すべての曲がアンプラグドで演奏されている。しかも、もともとアコースティックに近かった曲ではなく、あえて「どメタル」な曲ばっかりを選んでいる点がミソ。オープニングの“ディスポーザブル・ヒーローズ”なんて、86年の『メタル・マスター』の中でも特にごりごりヘヴィな曲だったけど、ここではサイケデリックなブルース風に生まれ変わっちゃっている。まるで新曲だ。

全12曲中の4曲はカバー(ディープ・パープル、ナザレス、ボブ・シーガー、ブルー・オイスター・カルト)で、バンドの意外なルーツを垣間見られる。その一方で、おなじみの人気曲(“エンター・サンドマン”とか)にも思わぬ発見が多い。歌に集中して聴けるぶん、曲の「物語性」がむき出しになって、頭脳にダイレクトに突き刺さってくる。

会場の雰囲気もいい感じで、客席との感情的な絆が音だけを聴いていてもはっきりわかる。バンドとファンが一体となって築き上げる「コミュニティ」の理想形と、その先にめざすもの。本作はたった一夜限りのイベント・ライブの記録だけど、今のメタリカが考えているのは、たぶんそういうことだ。 (内瀬戸久司)



詳細はUNIVERSAL MUSICの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

メタリカ ヘルピング・ハンズ…ライヴ&アコースティック・アット・ザ・マソニック - 『rockin'on』2019年4月号『rockin'on』2019年4月号
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする