JDの埋葬とNOの誕生

ニュー・オーダー『ムーブメント(ディフィニティヴ・エディション)』
発売中
BOX SET
ニュー・オーダー ムーブメント(ディフィニティヴ・エディション)

ニュー・オーダーのファースト・アルバムが豪華ボックスで登場。オリジナル・アルバムのLPとCD、デモ録音など未発表18曲入りCD、当時のライブ映像やTV出演映像を収録したDVD、さらにハードカバーのブックレットを収録した4枚組だ。

イアン・カーティスの自死後、残されたメンバーはバンド存続を決意、新メンバーにジリアン・ギルバートを加え、ジョイ・ディヴィジョンからニュー・オーダーと名を変え、2枚のシングルのリリース後、1981年11月に本作を発表している。とはいえ、そこには「心機一転で再出発」というような前向きなニュアンスはうかがえない。絶対的カリスマを突然失い、戸惑い、苦悩するメンバーの姿が刻み込まれている。18曲収められたデモ・バージョンは、その煩悶の生々しいドキュメントだ。自分たちはこれからどこへ向かえばいいのか、何をどう表現すればいいのか、わからない。楽曲はすべてイアンの死後に書かれたものなのに、曲調も、歌詞も、ジョイ・ディヴィジョンそのままであって、だからこそなおのこと、そこにあるべき主役の声がないのがあまりに痛々しい。ここで鳴っているのは中心部がぽっかり空いた空虚そのものであって、僕はこのアルバムを「傑作」「名作」と呼ぶことはどうしてもできない。

だがそれでも本アルバムを「重要作」だと言えるのは、本作がなければ、その後のニュー・オーダーの飛躍は絶対なかったからだ。彼らがイアンの死を乗り越え、次の段階に進むために本アルバムはどうしても作られなくてはならなかった。本作は過去の清算であり、ジョイ・ディヴィジョン的なものを葬り去る作業だったのだ。

彼らがニュー・オーダーとしての新しい手応えを得たのは、本作発表直前にシングルB面で発表された“エヴリシングス・ゴーン・グリーン”である。彼らとしては初めて反復するシンセのシーケンスをモチーフにしたもので、のちの彼らのエレクトロ・ディスコ的な方向性の端緒とも言える画期的な楽曲だった。それがはっきりと形になったのは82年5月発売のシングル“テンプテイション”(本作にデモを収録)だ。だがそれらの曲は『ムーブメント』本編に収録されることはなかった。それらは過去ではなく未来に向けて鳴らされるべき楽曲だったからだ。

ちなみに本作はジョイ・ディヴィジョン時代からの盟友マーティン・ハネットがプロデュースした最後のアルバムでもある。“エヴリシングス・ゴーン・グリーン”でハネットの仕事に不満を持った彼らは“テンプテイション”からセルフ・プロデュース態勢に移行する。 (小野島大)



詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ニュー・オーダー ムーブメント(ディフィニティヴ・エディション) - 『rockin'on』2019年5月号『rockin'on』2019年5月号
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