前作『平凡』に明らかだったのは、他人との差異でしか個性や自己顕示ができなくなった人間に対する強烈なシニシズムだった。そんな人間共食いのような地獄が延々ループする今に疲れ、誰かに馬乗りになる方法を考えるばかりの日々と愚かさを笑いながら踊り続けるアルバムだった。
そして今作はというと、『平凡』の先でいよいよ「人間の終わり」を突きつける怖さに満ちている。人々のモラルがぶっ壊れていく様と想像力(慈愛と言い換えてもいい)の喪失を「人間のアイデンティティの崩壊」と捉えたうえでのディストピアを描く不穏さが、徹頭徹尾貫かれている。まるで呪文の詠唱のような歌は、血眼なのに表情は素面、とでも言いたくなるような怖さを感じさせる。弦とホーンを多用し、どこでもないどこかへ旅立つようにジプシー音楽を下敷きにしながら、強烈な諦観の底で踊り続ける。意図的に人の匂いを消してビートミュージックに接近する瞬間も多々あり、現行のトレンドの消化スピードに驚嘆するとともに、時代と世界を真っ向から睨む志磨自身の視座にこそ震える。(矢島大地)
2019年のええじゃないか
ドレスコーズ『ジャズ』
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