北アイルランド発のトリオ、トゥー・ドア・シネマ・クラブ。本作は通算4枚目、3年ぶりのニュー・アルバムになる。既報のとおり、再来月にはサマーソニック 2019への出演が決定。一昨年の単独公演以来の来日となるが、本作はその期待をさらに高める格好の呼び水となるにちがいない。なお、本作よりメジャー傘下を離れて、サーカ・ウェーヴスやマキシモ・パークを擁する新興「Prolifi ca」からのリリースとなる。
デビュー以来、ダンス・フロアの感覚に優れたエレクトロ以降のギター・バンドとして、ポップ・フィールドをも射程圏内におさめる、華やかでモダンなサウンドを披露してきたTDCC。そんな「Kitsuné」も見初めた彼らのスタイルは、本作においても当然のごとく変わらない。“ワンス”のトリッピーなシンセ・ポップを皮切りに、80sファンク、シック風ディスコ、ソウル、はたまたラウンジ趣味を鮮やかに落とし込む術は、まさに彼らの真骨頂。くぐもった低音が魅力の密室感あふれる“シンク”、自然音も聞こえる独特なアンビエンスをたたえた“ブレイク”も素晴らしい。なお、プロデュースを務めたのは、今回が3作連続となる敏腕ジャックナイフ・リー(U2、キラーズ、R.E.M.他)。大枠の方向性としてはこれまでを踏襲したものながら、プロダクションは十分に練られ、音響的にもブラッシュアップされた印象だ。トーキング・ヘッズもダブるドープなディスコ・ファンク“ナイス・トゥ・シー・ユー”では、シカゴのラッパー、オープン・マイク・イーグルがゲストで参加している。
パーカッションが煽るアップビートなパンク・ファンク“ダーティ・エア”は、ライブでハイライトを飾ること必至の一曲。が、なかでも白眉は、ベルリン時代のボウイも連想させるモータリックな“サテライト”、そして高揚感に満ちたファルセット&コーラスが響き渡る壮麗な“オールレディ・ゴーン”へと至る終盤の流れだろう。リリックでは、例えばアルゴリズムによって最適化された消費社会への警鐘が描かれるなど、随所にポリティカルなテーマが窺える本作。とりわけ団結を呼びかけるような“サテライト”は、ブレグジット以降の母国が置かれた状況を想像させて示唆的である。
デビューから10年あまり。2010年代以降、いや、このわずか数年の間でギター・バンドを取り巻く状況は大きく変わった。しかし、奇策を弄せず自分たちのアプローチを磨き上げ、着実なボトムアップを続けてたどり着いたTDCCの現在地。その確かな手応えを感じることのできる、充実の内容だ。 (天井潤之介)
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