3年ぶりの新作は通算8枚目のアルバムとなるが、おそらくここまで腰を据えて、なおかつ自由にピクシーズとしてアルバムを仕上げたことはないのではないか。オルタナティブ・ロックの先駆者としてのハードさとエッジ、それと同居するいびつなポップ性など、ピクシーズが後進のバンドに与えた影響はあまりにも大きい。しかし、初期の頃はあまりに惜しげもなく試みや意匠を果敢に変えていくところが、目まぐるしくてどこか摑みどころのない伝説のバンドと化していたところがあった。04年に再結成して10年後にようやく23年ぶりの新作『インディ・シンディ』をリリースしたが、これはファンが期待していた通りの音を提供しつつも、どこかピクシーズらしさをひたすら追いかけているという堅苦しさやぎこちなさを感じないでもなかった。04年からは基本的に91年の『世界を騙せ』までの楽曲を引っ提げたツアー・バンドに徹していたのでそれも無理はなかったということかもしれない。
16年の『ヘッド・キャリア』もまたピクシーズらしいサウンドを見事に鳴らしながらもそうした抑圧を感じないでもなかったし、そもそもブラック・フランシスとキム・ディールとの軋轢でバンドが崩壊しかかっている中で制作され、解散前の最後の作品となった『世界を騙せ』自体もまた、強引にピクシーズらしい音として作り出されたアルバムだと言えなくもなかった。
そんな思惑、あるいは無意識的な抑圧や抑制をまったく感じさせない解放感に満ちているのが今回のアルバムで、もちろん、ピクシーズらしいサウンドを追求しながらも、この伸びやかな音がとても感動的だ。たとえば“キャットフィッシュ・ケイト”などは、ピクシーズらしいモダン・ロックとしてのアプローチでもって古典的なロックンロールに切り込んでいく楽曲となっている。ただ、そんな様式化を追求した果てがまるでブルース・スプリングスティーンの名曲のような響きを鳴らす仕上がりになっているのだ。これまでのような「ピクシーズらしさ」というバイアスがかかっていたならまずはありえなかったトラックで、このアルバムの風通しのよさと解放感をよく物語っている。
あるいはファースト・シングルの“オン・グレイブヤード・ヒル”などはまさにピクシーズのイメージ通りのサウンドで始まるが、コーラスで響かせるメジャー感がたまらない迫力となっているし、それがこのバンドの歴史と歩みなのだ。新たな代表作をまた生み出してみせたことに感銘を受けた。 (高見展)
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