前作『ノー・プレイス・イン・ヘヴン』から4年という時間を経た5作目のアルバムに、僕の名前はマイケル・ホルブルック、と自身の本名を冠したミーカ。今作では、音楽家としての想像力あふれる旅や、さまざまな土地を巡って音楽を奏でる旅、またアイデンティティの旅など、ここに至るまでにさまざまな旅をしながら得てきた思いが形になっている。これらの旅を通してテーマとなったのは、シングル“タイニー・ラヴ”で歌われる「愛」。それも壮大なものじゃなく、《それは月曜の朝もそこにあるような そんな愛》というような、ささやかでいて普遍的な愛だ。アルバムを幕開ける役目も担ったこの“タイニー・ラヴ”では、ささやかでいてかけがえのない愛を、自分自身や身近な誰かに手渡ししていくかのようにメロディを紡ぎ、カラフルな音を編み込んだギフトとして手渡してくれる。
ピアノを基調に、多彩な楽器で景色を色付けるクラシック的なポップスは変わらず大事にしながら、サウンド的遊びはふんだんになっていて楽しい。“ディア・ジェラシー”ではクールでいて、ビートにラテン・テイストを香らせ、ゴスペル風のコーラスや、80s風でもあったりと、嫉妬が引き起こす混乱が音となって映像的魅力も濃い。ベースラインがフックとなったシックなダンス・ミュージック“クライ”、“プラットフォーム・バレリーナス”の80s風パンキッシュ・ポップも新鮮で、それがミーカの音楽に落とし込まれたものになっている。個人的には、ピアノの弾き語りから徐々にボリュームを上げて、全霊を注いで孤独な心に呼びかけていく“アイ・ウェント・トゥ・ヘル・ラスト・ナイト”が、ミーカの音楽が持つ純粋で美しい力であり、真髄で、今回の「愛」が込められた曲だと感じる。 (吉羽さおり)
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