桃源郷へのセカンド・ステップ

カイト『サイエンス・フォー・ザ・リヴィング』
2009年04月08日発売
ALBUM
カイト サイエンス・フォー・ザ・リヴィング
そのドラマティックなメロディの飛翔力が、鮮やかなサウンドスケープの描写力が、本物であることを証明する2ndアルバム。控えめなエレクトロニカと柔らかなギター&シンセのアンサンブル、そして透明なエンジェリック・ボイス。ほんと……たまらない。個人的にも前作は麻薬のように聴きまくってたが、期待通りの1枚である。英レスター出身の5人組、カイト。レディオヘッドやシガー・ロスに影響を受けたというサウンドは、エモーショナルな叙情性とシューゲイザー的な音の壁を兼ね備えたもの。前作に比べても、ダイナミックなギターが前面に出たことで、より音の厚みも増した。そして彼らの何よりの強みはVoニック・ムーンの儚げな歌声だろう。ミニマルなフレーズとシンプルなメロディをもとにした曲構成は、実はそこまで起伏に富んだものではない。けれど、彼の声の力が浮遊感を生み出し、ディレイの津波の向こうに、耽溺できる“異世界”を作り出す。
07年のデビュー作はロングヒットを続け、昨年のジャパンツアーも全公演ソールドアウト。映画『余命1ヶ月の花嫁』に挿入歌が使用されるなど、日本ではすでにインディ・バンドらしからぬ注目を集めている彼ら。しかもまだ弱冠21歳である。ティーンのバンドも珍しくない昨今のUKロック・シーンだが、彼らは勢い勝負のパンク・バンドじゃない。この年代でここまで壮大で透明感あふれるサウンドスケープを作り出せるバンドはなかなかいないだろう。今夏にはサマソニも決定しているが、ライブでの表現力や楽曲のバラエティはまだまだここから成長していきそうな気もする。期待大。(柴那典)
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