家族のためのニュー・エイジ

スフィアン・スティーヴンス&ローウェル・ブラムス『アポリア』
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ALBUM
スフィアン・スティーヴンス&ローウェル・ブラムス アポリア

スフィアン・スティーヴンスによる15 年発表の美しいフォーク作『キャリー・アンド・ローウェル』は亡き母に捧げられたアルバムだったが、そこでは義理の父親との絆もまたさりげなく表現されていた。その継父がローウェル・ブラムスであり、スフィアンは彼とレーベルのアズマティック・キティを共同設立し、また、ローウェルのソロ作『ミュージック・フォー・インソムニア』に参加している。ふたりは、音楽でこそ繋がる家族なのだ。

ほぼ全編インストゥルメンタル・アルバム。スフィアン・サイドから見れば、彼が持つ音楽性のうちのエレクトロニカの部分が強調された作品だと言えるだろう。いっぽうローウェル側から見れば、『ミュージック・フォー・インソムニア』は実験性が非常に高く、「不眠症のための音楽」の名の通り不穏さに包まれた作品だったが、『アポリア』はニュー・エイジと呼べるような安らかな響きがある。と言っても甘すぎず、ノイズが細やかに入って聴く者の耳を簡単に休ませてはくれない。基本的にはシンセ・ウェイブ風のドリーミーなムードで進行するが、オウテカのような硬質な打音も入ってくるので油断できない。

また本作がたんなる癒しのためのニュー・エイジとなっていないのは、ところどころでスフィアンの音楽特有の悲痛なエモーションが漏れてくるからだ。だがそれらをなだめるように、ローウェルによるアンビエントが全体を抽象的に広げてゆく。だからこれは、『キャリー・アンド・ローウェル』同様とてもパーソナルな作品で、ふたりの関係性をささやかに表現したものなのだろう。アカデミー賞でのパフォーマンスなど大きな舞台での活躍が目立った近年のスフィアンだが、本作には彼が安心して帰れる場所がある。家族とはそういうものなのだと。 (木津毅)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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スフィアン・スティーヴンス&ローウェル・ブラムス アポリア - 『rockin'on』2020年5月号『rockin'on』2020年5月号
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