昨年末にRHCPへの電撃復帰を発表したジョン・フルシアンテのソロ・プロジェクト。ジョンはこれまでバンド・プロジェクトに近い内容の作品についてはソロ名義、エレクトロニック・アプローチの作品についてはトリックフィンガー名義でリリースしていて、今回はトリックフィンガーとしてのものだ。
同名義でのこれまでの作品は、ヒップホップやイギリスとアメリカのDJサウンドを軸としたエレクトロニック・ミュージックとして構築されていて、基本的にこのアルバムもその一環。ジョンもこれまで何度か語ってきているように、こうしたアプローチはこれまでギターを通してでしか形にできなかった自分の音を、すべて頭の中で鳴っていたように形にしてみせる試みだという。つまり、自分の頭の中に鳴っているものをより忠実に形にするためのもので、人に聴かせることをまったく目的としていないのだそうだ。
さらにこれまでリリースされた音源はどれも07年録音のもので、ジョンがチリ・ペッパーズの脱退以前からこの試みに心血を注いできたこともよくわかるし、基本的にここ10年の彼の活動はこの試みのためだけにあったといってもいい。今回の音源がいつのものなのかは不明だが、音としては限りなくこれまでの作品の延長線上にある内容だ。どことなく、音やビートとしての古さを感じる向きもあるかもしれない。しかし、もともとジョンのエレクトロニック・ミュージックへの傾倒はよく知られているし、90年代の10年間が彼にとってはほぼ失われたものになっていたことを考えれば、これはどうしてもやっておかなければならなかったことだったはず。そして、今となってはバンド復帰が本格化する前に、蹴りをつけなければいけないことなのだ。 (高見展)
視聴リンクはこちら。
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。