クラウド・ナッシングスの1年9ヶ月ぶりの7作目。結論から言ってしまうと傑作である。彼らの新境地ともいうべき魅力がたっぷりと詰まった作品だ。だがSpotifyやApple Musicなどのサブスクリプション・サービスで気軽に聴こうとしてもできない。Bandcampのみでリリースされているからだ。
彼らのBandcampページに記載されているサブスクリプション・サービスに毎月5ドルを支払うと、本作や過去のライブ・アーカイブを含む36タイトル(7/23現在)のすべてがストリーミングで聴き放題となる。さらに毎月新たなデジタルEPがそこに追加され、毎月9ドルを払うとそれに加え年に2枚のヴァイナルも入手できる。サブスクに登録せずアルバム単独でダウンロードする場合は10ドル払う。
バンドにとっては継続してコンスタントに収入があるのがメリット。その代わり、ファン以外への広がりを期待しにくい。彼らは自分たちの音楽を一般向けに広めるというよりも、熱心なファンに向けて、いわば閉じた形で提供するわけだ。
その成否はこれから明らかになるわけだが、こうしたシステムが考案されたのもコロナ禍の影響でコンスタントなライブが不可能になったからだろう。そして本作の制作もメンバー全員が一堂に会しての昔ながらのバンド・レコーディングではなく、音声ファイルをやりとりしてリモートという形で行われたようだ。そのせいなのか、彼ららしいハードでラウドで生々しくダイナミックなバンド・サウンドというよりも、彼らのメロディアスでポップな側面が強く打ち出されたものになっている。ギター・サウンドもヘヴィで分厚いものから軽く透明感のあるものに変化していて、曲によってはイーターみたいなシンプルな最初期パンク風だったり、甘くリラックスしたギター・ポップ風だったりする。オレはティーンエイジ・ファンクラブの新譜を聴いてるんだっけ、という気にもなってしまう。
以前からハードなサウンドの一方で叙情性のあるメロディ表現にも長けていた彼らの美点がよく表れているし、こういう音楽性であればリモート・レコーディングもハンデにならない。コロナはさまざまな形で音楽家たちに深刻な影響を与えているが、クラウド・ナッシングスは制約を逆手にとって音楽的にもバンド活動面でも新しい試みを行っている。素晴らしいことだと思う。サブスクで(実質)タダで聴けるのが当たり前になってしまった今、ややハードルはあがったが、ぜひ彼らの新境地を堪能してほしい。 (小野島大)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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