最強の証明

ザ・ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ [スーパー・デラックス・ボックス]』
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BOX SET
ザ・ローリング・ストーンズ 山羊の頭のスープ [スーパー・デラックス・ボックス]

キングストンのダイナミック・サウンド・スタジオで録音された1973年作。当時世界的に注目を集めつつあったレゲエの本場であることはあまり関係なさそうで、腰を落ち着けて制作できるスタジオを求め、たまたまここになった、ということのようだ。よってジャマイカの空気感やレゲエからの影響は、少なくとも表面的な音からはうかがえない。

本作に関しては、散漫でまとまりに欠ける、という評価が適切だろう。雑多な曲調も、アメリカ南部の音楽という芯が一本しっかりと貫かれていた前作『メイン・ストリートのならず者』に対して、“スター・スター”や“シルヴァー・トレイン”のようなストーンズらしいロックンロールから、感傷的なバラード“悲しみのアンジー”、ゴスペルっぽい曲調ながら日本の伝統的な和楽器のような音も鳴る無国籍な“全てが音楽”、ヴードゥーっぽい呪術ファンク“ダンシング・ウィズ・ミスターD”、スティーヴィー・ワンダーなどニュー・ソウルの影響色濃い“100年前”、ファンキーなブラス・ロック“ドゥー・ドゥー・ドゥー〜”など、個々の曲は良くても全体として焦点が絞り切れておらず、アルバムとして何を伝えたいのかよくわからない。ニッキー・ホプキンスがピアノを弾く従来のストーンズに近い曲と、ビリー・プレストンがクラビネットを弾くソウル/ファンク曲が分裂している印象もある。もっともこれは『ベガーズ〜』以降、ロック史に残るほどの大傑作を連発していた彼らだからこそ出る不満であって、当時の我々のストーンズに対する期待はハンパなく高かったのだ。オレ的に本作のベスト・トラックは“スター・スター”と“シルヴァー・トレイン”。ただのチャック・ベリー・スタイルのロックンロールや泥臭いブギ〜ブルース・ロックをここまで白熱した演奏に加速したミック・ジャガーのボーカルはすごいの一言。

今回のデラックス・エディションは、オリジナル・アルバムの最新リマスターと、完全未発表3曲を含むレア・トラック集の2枚組。“100年前”の意表を突くピアノ・バージョンが非常に良かった。さらに、当時のライブ音源『ブリュッセル・アフェア』(1973年10月収録)、ドルビーアトモス音源やMVを収録したブルーレイ、貴重情報満載の豪華ブックレットなどを同梱したスーパー・デラックス・エディションなどが発売される。目玉は全盛期のライブ『ブリュッセル・アフェア』だろう。キース・リチャーズとミック・テイラーのコンビネーションは鉄壁だし、ミックの声も強い。正真正銘、最強のライブだ。 (小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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ザ・ローリング・ストーンズ 山羊の頭のスープ [スーパー・デラックス・ボックス] - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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