渦中を突き抜けるはじまりの歌
Ken Yokoyamaは、再びここからはじまる――そう言っても過言ではない一枚だ。「初めての」ミニアルバム、(DIYを追求してきた彼らにとっては、これもひとつの「表現」と言える)新たな流通経路を使った通販限定販売、2018年末に加入した松本英二(Dr)がバンドに参加してから初の単独作品、そして横山健が自ら描いたジャケットと、《キンタマ》という言葉が飛び出すほど彼のありのままが表れた全6曲。あらゆる面から見て、大きな一歩を踏み出したことが伝わってくる。とは言え今のKen Yokoyamaには、圧倒的な経験値があるのだけれど。それでも、まだ開拓をやめない、裸になることをやめないところが、彼らの凄みだと思う。しかもそのタイミングが、コロナ禍にぶち当たるという……これもパンクロックヒーローの宿命なのだろうか? しかし、今作に詰まっている言葉と演奏が、混乱の時代に生きる私たちを笑わせ、力をくれることは確かだ。《恥をかいてきた/何度もミスを犯した/それでもオレは もっと激しく生きる道を選ぶのさ》(“Still I Got To Fight” 和訳)――共に歌えば、まだまだ自分もはじめられる、闘えると思えるはず。(高橋美穂)最高の時を思い出せ。そして手を伸ばせ。
ああそうか、俺はこれが聴きたかったのか、というアホみたいにシンプルな事実を、歓喜の中でひたすら突きつけられる14分強。長期に及んだ沈黙の理由については「横山健の別に危なくないコラム」Vol.103に詳しく綴られていたが、その空白期間を一気に埋めて余りある初のミニアルバムである。もう大半の人が今起こっていることをわかっているし、不安の中で心を痛めているし、何をすべきか日々考えてる。その前提があるからこそ、「退屈なのか? ああ、俺もだよ」と言ってやることは必要で、それはパンクやロックが率先して言うべきことなのだ。松本英二(Dr)加入後初のまとまった音源作品ということで、彼の推力やKen Bandにおけるフレッシュなロール感の貢献度ももちろん大きいのだが、それ以上に作詞・作曲もアレンジも、バンドが一丸となって純度の高い説得力を目指していたことがわかる。深い含蓄に富んだ(?)1分足らずのハードコア“Balls”には、笑いながら泣きそうになった。今回はPIZZA OF DEATHのレーベル直販限定リリースということで、個々のリスナーが意識的、積極的に手を伸ばす姿勢が求められている。(小池宏和)(『ROCKIN'ON JAPAN』2020年11月号より)
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2020年11月号にKen Yokoyamaが登場!
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