闇すらも震わせ突き動かす音

リンキン・パーク『ハイブリッド・セオリー 20周年記念盤』
発売中
ALBUM
リンキン・パーク ハイブリッド・セオリー 20周年記念盤

「21世紀史上最も売れたデビュー・アルバム」こと『ハイブリッド・セオリー』の聴こえ方が、去年までと現在とではまるで変わった、と感じているのは僕だけではないと思う。己の焦燥感と喪失感を通して、アメリカのみならず世界中のリスナーの内なるカオスを撃ち抜き、全世界トータルで2500万セールスを叩き出すに至った『ハイブリッド・セオリー』。そんな今作のシリアスな音像と絶唱が今、新たな切迫感をもって「僕らの暗黒」を指し示す――。もちろん、変わったのは作品ではなく、終わりの見えないコロナ禍に生きる僕らの環境とマインドの方だ。身を焦がすほど凄絶な今作のリアルはそのまま、2020年という時代の通奏低音そのものの切実な響きを帯びている、ということだ。

『ハイブリッド・セオリー』リリース20周年を記念して発売された今作は、“ペイパーカット”、“イン・ジ・エンド”などアルバム収録全12曲と、同時期のシングルに収められていたレア音源の数々をコンパイルした「Bサイド・レアリティーズ」の2枚組。“ワン・ステップ・クローサー(ロック・ミックス)”と題された別ミックス音源、“イン・ジ・エンド”、“ポインツ・オブ・オーソリティ”などのライブ・テイク、デビュー前の『ハイブリッド・セオリーEP』に収録されていた“ハイ・ヴォルテージ”、“マイ・ディッセンバー”、マリリン・マンソンのリミックス版“バイ・マイセルフ”……。心の軋轢にそのまま言葉とメロディを与えたかのような、亡きチェスター・ベニントンの熾烈な歌声が、そしてハイパーかつハイブリッドな手法と革新性によってバンド音楽の限界を押し広げたサウンドスケープが、リンキン・パークの「原点」の衝撃を改めて今に伝えている。なお、“シー・クドゥント”、“ピクチャーボード”を含む未発表12曲、未公開ライブ映像などを収録した『20周年記念盤スーパー・デラックス版ボックス・セット』は残念ながら売り切れてしまったようだが、CDだけでも計5枚分に及ぶ収録楽曲は現在各種サブスクでも聴くことができる。

「パンデミックが始まる前に僕たちは曲を書いてた」とフェニックスが明かす一方、チェスターのボーカルがフィーチャーされたグレイ・デイズ『アメンズ』に関してマイク・シノダは「(チェスターの)声は聴きたくない。リンキン・パークのアルバムですら聴くのが辛い」と語っていたという。デビュー当時の音源を大放出した今作が、チェスターを喪った「その先」へバンドが歩き出すための新たなスタートラインとなることを、今はただ願う。(高橋智樹)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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リンキン・パーク ハイブリッド・セオリー 20周年記念盤 - 『rockin'on』2020年12月号『rockin'on』2020年12月号
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