伝統は未来に更新されていく

カマシ・ワシントン『ビカミング』
発売中
ALBUM
カマシ・ワシントン ビカミング

オバマ前アメリカ大統領の回顧録第1巻が世界的なベストセラーを記録しているタイミングで、ミシェル夫人の(これまた)ベストセラー自伝『マイ・ストーリー』と連動した話題の同名ドキュメンタリー映画のサントラがCD/アナログで登場する(映画公開時にストリーミングでは配信済み)。ミシェルのジャズ好きにインスパイアされ、監督が白羽の矢を立てたのはカマシ・ワシントン。才能の宝庫であるジャズ界だけに候補は他にいくらでもいただろう。しかし、伝統とモダンを繋ぐ現世代ジャズ界のスピリチュアル・ヒーローのひとりである彼がアメリカの政治・社会に新たな波をもたらしたアイコンと意外な形でフックアップしたのは嬉しいし楽しい。トランプ家のドキュメンタリー映画にこんなに冴えた音楽センスは期待できないだろう。

カマシが全作曲・プロデュースし、ネクスト・ステップの面々を軸に東西の名手が集結しているれっきとしたリーダー作だ。しかしアーチー・シェップ的な奔放な側面は薄く、ホーンを主体にストリングスが美しく盛り上げる比較的王道なジャズを志向している。カマシも「自分の『内なるミシェル』とチャネリングしようとした」と語っていたようにここでの主役はあくまでミシェル。彼女の人生を彩ってきた音楽や体験、映画の場面や回想録の言葉/感情を参照しつつそれをメインストリームな聴き手にも伝わる音に置き換えることが主眼だったことになるし、シカゴ出身のミシェルを意識してか(?)カーティス・メイフィールドを想起させるシカゴ・ソウル味も強く混じっている。ゆえにカマシの作品にしてはスムーズで聴きやすいと言えるが、それでも圧巻の㈱を筆頭にきっちり自己主張しているのはさすが。彼の懐の深さを知るためにもファンは必聴。(坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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カマシ・ワシントン ビカミング - 『rockin'on』2021年1月号『rockin'on』2021年1月号
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