デビューから僅か一年、CDを1枚もリリースしないままストリーミングチャートを席巻してしまったYOASOBIが、遂に初のフィジカル作品を完全生産限定で放つ。小説を原作に楽曲を生み出すというコンセプトは、メディアミックスの面白さだけではなく「物語がリスナーの感受性をオープンにさせる」という音楽タイアップのヒット構造にも通じていた。“Epilogue”に始まって“Prologue”に終わるという、曲調の印象も逆さまのインスト曲に挟まれた本作に触れてみると、気づかされるのはむしろインスピレーションの連鎖を引き起こす現代カルチャーの底知れなさであり、そしてありとあらゆる物語をカラフルなポップソングへと仕立て上げるYOASOBIのポテンシャルの底知れなさである。いきなり「世界最後の日」から始まる物語の“アンコール”や、放送作家・鈴木おさむが原作を書き下ろした“ハルカ”なども、YOASOBIの新しい魅力が引き出されている。原作小説や歌詞のテキストを読み込みながら、どっぷりと音楽に身を浸してみて欲しい。インスピレーションの連鎖は、あなたをも巻き込むはずだ。（小池宏和）

『ROCKIN'ON JAPAN』2月号より